高齢者の難聴と補聴器:いやがる理由を解決し、前向きな対策を始めよう!
高齢者の中には、難聴に悩まされている方が少なくありません。しかし難聴を自覚しても、補聴器を利用することに抵抗感を持つ方がいらっしゃいます。本記事では、高齢者が補聴器をいやがる理由と、その対策をご紹介します。
高齢者の難聴とは?
まずは、高齢者の難聴についておさらいしましょう。加齢によって起こる難聴は「加齢性難聴」と呼ばれ、50歳以上の人に多く見られます。耳の鼓膜のさらに奥にある聴覚細胞などが劣化することによって、聞こえにくさが生じます。特に、高音域(高い周波数)の音から聞き取りにくくなる傾向があります。
高齢者が補聴器をいやがる理由と最近の実情
難聴に悩む高齢者が補聴器をいやがる理由は何でしょうか。以下に、その主な理由と最近の実情を合わせてご紹介します。
(1) 難聴に対するコンプレックス、もしくは社会的なプレッシャー
難聴を含めた身体の機能の低下を“恥ずかしいこと” “情けなく、不甲斐ないこと” と感じてしまう高齢者は少なくありません。この場合ご自分の難聴を自覚しても、それを隠そうとします。しかし実際には、会話がかみ合っていないことで周りに難聴であることが知られることになります。ご本人は会話する姿よりも「補聴器を身に着けることで周りに難聴が知れ渡ること」を強く心配します。
難聴と周りに知られたらバカにされるかもしれない、と社会的なプレッシャーを想像してしまうのです。コンプレックスや社会的なプレッシャーへの心配は、一朝一夕で変わるものではありません。
こういった価値観の方には周りの方のご理解がとても大切です。
具体的には下記のような声掛けが前向きな気持ちにさせてくれる可能性があります。
「絶対気づかれない極小の補聴器が今はあるんだって、それを見るだけお店に行ってみない?」
「お父さん(お母さん)の耳について心配なことがあるから、お店に相談したいと思っているんだ。専門的な相談ができる完全予約制のお店を探していて、周りに知られず相談できると思うから行ってみない?」
極小サイズの気づかれない補聴器については、下記のページに詳しく書いてあります。
(2) 補聴器の装着感や違和感
すでに一度どこかで補聴器や集音器を試した経験がある高齢者の場合、補聴器をつけたときの装着感に苦手意識を持っていることがあります。耳に違和感を感じたことがあれば「もう付けたくない」といやがってしまうのも当然です。耳の穴に何かしらの物体を入れたときの感覚は個人差が大きく、例えば耳の穴を掃除する綿棒や耳かきを耳に入れることさえ苦手な方がいます。こういった方の場合、耳の穴に物(補聴器)を入れることに抵抗を感じます。
最近は補聴器の種類が増え、装着感の良い器種も登場しています。また補聴器の耳せん部分だけをオーダーメイドでお作りすることで、装着感を改善させることも出来ます。
補聴器を耳に装着した時の着け心地の快適さは、販売店のスタッフの技術力が大きく出るところです。オーダーメイドの耳せんについては、専門店に相談していただくことをおすすめします。
(3) 補聴器の効果に対する疑問
「補聴器を使用しても効果がないかも知れない」
「効果があったとしても、自分が感じている困りは解消されないかもしれない」
こういった不安や疑問がある方も少なくありません。
補聴器に前向きな気持ちになれない方は、お友達やお知り合いから「補聴器を買ったけど、よく聞こえなくて使っていない」などのネガティブな話を聞き、それを強く信じている可能性があります。しかし補聴器の効果には、大きな個人差があります。補聴器の効果に個人差が生まれる理由は3つあります。
1.ご予算の差
補聴器は通信販売で2万円程度の低価格なものから130万円ほどの最高級品まで、価格に大きな開きがあります。お友達の体験した補聴器は、最低限の機能を持っていない低価格なものだったかも知れません。
それでもお友達から聞いた補聴器に対するネガティブな噂話は、もともと難聴対策に後ろ向きな高齢者にとっては補聴器を検討しない根拠になります。
2.購入した補聴器店のフィッティング技術の差
補聴器は音質調整などのフィッティング技術によって、その効果が大きく異なります。
十分な調整技術がなければ、補聴器は本来の性能を発揮できません。
高価格で高機能な補聴器ほど、その性能を十分に発揮させるためには高性能な検査機器や高度な調整技術が必要になります。例えば、同じ商品をA店で買った人はよく聞こえなくても、B店で補聴器を買った人はよく聞こえる。これは実際にあることです。
3.聴力や耳の形状の個人差
稀なケースですが非常に重篤な難聴の場合、補聴器を使っても効果が無いことがあります。これは耳元で肉声の限界のような大音量を発しても聞こえないような状態ですから、多くの場合当てはまりません。
4.大きすぎる期待
補聴器は、耳のいい人の聞こえに”近づける”ことを目指して開発されています。耳のいい人を上回って、よく聞こえるようにはなりません。また頭の回転を早くしたり、聖徳太子の伝説のように複数人の会話を同時に聞き取れるようにも出来ません。
しかし加齢によって長い年月をかけて徐々に聴力が低下していくと普通の聞こえが分からなくなり、耳のいい人を超えるような大きすぎる期待を持ってしまっている場合があります。
(4) 補聴器を使うことで、周囲の騒音が大きく不快になることへの心配
高齢者が補聴器をいやがる理由の一つに、周囲の騒音があげられます。補聴器は音を増幅するため、周囲の騒音が増幅されて必要な音以外に周囲の騒音も増幅されて聞こえすぎてしまうことに対する心配です。周囲の騒音が増幅されれば、当然ストレスや疲れを感じやすくなります。
しかし通販や既製品などをのぞけば、現在の補聴器のほとんどは周囲の騒音を取り除いたり、不快な音を軽減する機能があります。補聴器のメーカー、形状、発売時期、価格によって、性能が異なる部分になりますが、どれを選んでも雑音を抑制する機能はあります。
音の種類によって音量を自動で調整する機能(環境適応)、雑音下で言葉だけを残す機能などは器種によって様々です。しかし音が大きすぎて不快というケースは、現代の補聴器を適切に調整した場合、ほとんどありません。(聴覚過敏や補充現象と呼ばれる症状の方をのぞきます)
補聴器の聞こえ方、うるささの心配については購入前の試聴サービスで体験していただくと確実です。
(5) 経済的な負担
補聴器には高価なものもあり、経済的な理由で格安の集音器や通販の補聴器を選ぶ方もいます。もし家族が聞こえや会話を改善してあげたくて、「私たちが負担をしてでもちゃんとした補聴器を着けよう」と声をかけても、高齢者は迷惑をかけたくないと思う人もいます。
補聴器の経済的な負担を減らすには、第一に費用負担を軽減するための制度を活用しましょう。例えば、日本では国の助成金制度や、市町村の福祉事業による補助金制度があります。これらの制度を活用すれば経済的な負担は軽くなります。
その他お仕事の職種や立場によっては、会社の経費で補聴器を購入される方もいらっしゃいます。建築などの工事現場で音の方向が分からないと危険がともなう方、もしくは会社を経営されている方です。
もしまだ会社にお勤めであれば、福利厚生の一環として、会社で補聴器購入に関しての支援が受けられないか聞いてみることもおすすめです。
(6) 家族の支援に対する心理的な負担
補聴器の代金をご家族が負担しようとしているのに、ご本人がこれを強く遠慮される場合は、純粋な経済的負担とは少し事情が異なります。これは強い遠慮の気持ちですから、ご家族が「お金は出してあげるから!」と言えば言うほど遠慮されてしまいます。
難聴のお父さんお母さんをご家族が思いやる場合であれば、ご本人の気持ちを配慮した声掛けが有効です。補聴器は医療費控除の対象になり、購入代金の一部が戻ってきます。
そこで、ご家族からご本人への声掛けとしては
「補聴器の代金の一部は、医療費控除で戻ってくるんだ。だから心配いらないよ」となります。
家族からの支援を、ご本人が気持ちよく受け取れる。そういう状況を作ってあげると、補聴器をスムーズに使ってくれる可能性が高まります。
(7) 相談に行ったら補聴器を使わされるという思い込み
難聴を自覚し、会話で困っている高齢者の場合、何かしらの対策が必要な事は、ご本人が一番分かっています。しかし同時に「補聴器はイヤだな。病院で治療したり、補聴器以外の選択肢は無いだろうか?」とまずは考えるものです。
補聴器以外の対策を考えている間に、補聴器店や補聴器を取り扱うメガネ店への相談が遅れます。耳鼻科を受診しても診察室の中では「補聴器はまだ早いと思うんですが・・・」と自分から言ったりする人もいるそうです。
そもそも難聴の対策は、補聴器だけではありません。会話やテレビの視聴にお困りの場合、補聴器の他にも選択肢があります。選択肢が補聴器の他にあるということ、それだけで耳鼻科や補聴器店に相談したり、前向きな行動を始めるキッカケになります。
補聴器を好まない方には「対話支援専用スピーカー」という選択肢もあります。音をあまり大きくしなくても、言葉が聞き取りやすくなる特殊なスピーカーで、マイクを使えば会話に使えますし、テレビに接続すれば音量を大きくしなくてもセリフが分かりやすくなります。補聴器に抵抗がある人にとっては、難聴対策に前向きな気持ちを持つキッカケの一つになります。
補聴器をいやがる高齢者が知らない補聴器のメリット
高齢者が補聴器を嫌がる理由は、様々なものがあります。いやがる理由があっても、それを大きく上回るメリットを感じれば前向きな気持ちになってきます。
ここからは補聴器をいやがっている人にあまり理解されていない、補聴器のメリットについてご紹介します。難聴の対策に前向きな気持ちを持ってもらえるキッカケになれば幸いです。
社会的孤立を防止できる
聴力が低下すると周囲の音を聞き取りにくくなり、人とのコミュニケーションが困難になる場合があります。特に高齢者の場合、聴力の低下により社会的孤立が進み、うつ病や認知症などのリスクが高まるとされています1)。補聴器を使うことで聞こえる音が増え、周囲とのコミュニケーションが取りやすくなれば、社会的孤立を防止することに役立ちます。
脳の活性化に繋がる
厚生労働省が我が国の認知症対策として示した新オレンジプランでは、難聴を放置すると認知症のリスクを高めると書かれています2)。
補聴器を使うことで聞こえる音が増えること、そして周囲とのコミュニケーションが増えることは脳の活性化につながると考えられています。脳の活性化が促進されれば、認知機能の低下リスクを下げることができます。
安全面が向上する
周囲の音が適切に聞こえていないと、自動車や自転車の接近に気付くことが出来ません。補聴器を使うことで周囲の音が聞き取りやすくなれば、交通事故や火災などの危険を察知しやすくなります。特に高齢者は聴力の低下により、危険な状況に気づきにくくなっていることがあります。
その他、最新の補聴器には転倒センサーが搭載されています。補聴器を付けているときに転倒すると、その傾きを補聴器内部のセンサーが察知して、自動で家族向けに電話を発信してくれます。会話の改善だけでなく、これら生活の安全面の向上を期待して補聴器を使い始める方が徐々に増えてきています。
前向きな対策を始めよう!
加齢にともなう難聴に対して補聴器を使うメリットは大きいと言えます。しかし高齢者が補聴器をいやがる理由には、それぞれ異なる様々な気持ちや背景があります。多くの方にとって、円滑なコミュニケーションが取れて、健康な生活が送れるなら、手段は補聴器でなくても(予算の範囲なら)何でもいいと思います。
高齢者自身が補聴器をいやがっているなら、ムリに使わせるのではなく周りの人たちが気持ちを理解して声をかけていければ、円満なコミュニケーションにつながっていきます。気持ちを理解した上での難聴対策のお誘いなら、ご本人も徐々に前向きな気持になってくるものです。
プロショップ大塚では補聴器の販売だけではなく、聞こえとコミュニケーションに関するご相談も承っています。ご相談だけの方もお気軽にご来店ください。
参考文献
1)
Author,William J. Strawbridge,Margaret I. Wallhagen, Sarah J. Shema, George A. Kaplan(2000 年 6 月 1 日).
Negative Consequences of Hearing Impairment in Old Age: A Longitudinal Analysis [web log].
Retrieved from URL
https://academic.oup.com/gerontologist/article/40/3/320/605349
2)
厚生労働省. (n.d.). 認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン).
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf
2006年から補聴器の仕事を始めました。もっとも確実に、よく聞こえる方法をご提供することが、私のミッションです。皆様の耳に合った補聴器をお届けするため、毎日毎日、聴覚医学の論文を読み、デンマークやドイツの研究機関と連絡を取り、時には欧州へ勉強に行き、海外から研究者を招き勉強会を開催し、国内の社会人大学院へ通い修士号まで取ってしまいました。本Webページでは、補聴器と難聴について、確かな情報や最新の情報をお届けしていきます。ご相談の方は、お気軽にご連絡ください。
保有資格:認定補聴器技能者、医療機器販売管理者
★ Twitter はじめました。耳の話を真面目に書いてます! : @mimi_otsuka