伝音性難聴と原因になる病気、完治しなかった場合の対策
伝音性難聴は中耳炎、過度な耳垢、鼓膜の穴や傷などが原因で起こる難聴の一種です。耳の穴を強く塞いだような聞こえ方になりますが、大きな声で話してもらえれば言葉はハッキリ分かります。多くの場合、治療で改善します。
完治しなかった場合の対策として、骨伝導など色々な補聴器があります。
伝音性難聴の特徴は(ほぼ)治療可能なこと
加齢などによる難聴と比べて、伝音性難聴は「耳の穴を強く塞いだような聞こえ方になるものの、大きな声はハッキリ分かる」という特徴があります。また治療で聴力が回復することが多いのも伝音性難聴の特徴です。
なお加齢などによる難聴の場合は「音は小さく聞こえるし、大きな声で話しかけられても言葉がハッキリしない」「大きすぎる音に強力な不快感を感じる」などの症状が加わります。
二つの難聴には大きな違いがあります。
伝音性難聴になる仕組み、原因になる病気、治らなかった場合の対策について紹介します。
加齢などによる難聴の原因はこちらをご覧ください。
耳には音を効率よく伝える仕組みがある
人間が音や言葉を最終的に感じ取るのは脳になります。耳には、脳へ音の刺激を効率よく伝える役割があります。
人間が音を聞く仕組みは、様々な器官の組み合わせで働いています。
①「外耳道(耳の穴)」から音が入ってくると、耳の穴の中で音は共鳴・増幅されます。トンネルやお風呂で音を出したときに近い現象が、耳の穴の中で起こります。
②「鼓膜」が音を受けて震え、振動を次の耳小骨に伝えます。太鼓などの楽器に触れると振動していることが分かりますが、これは同じ現象です。
③「耳小骨」は鼓膜の振動を蝸牛へ伝えます。
④「蝸牛」は、振動(音)を電気信号へ変換し、神経を通して脳に伝えます。
人間の耳は、大きく分けて「外耳道」「鼓膜」「耳小骨」「蝸牛」という4つの器官があります。
これらのうち「外耳道」「鼓膜」「耳小骨」のどこかが正常に働いていないと伝音性難聴になります。それ以外の「蝸牛」などが原因で起こる難聴は、伝音性難聴とは呼ばれません。
原因になる病気・ケガ・先天的なこと
病気、ケガ、耳垢が原因の伝音性難聴
○中耳炎
一般には中耳炎と一言でまとめられますが、実は様々な種類があります。
ここでは炎症によって発生する浸出液(いわゆる膿)によって生じる滲出性中耳炎についてご説明します。
滲出性中耳炎になると、過剰な浸出液が出てきます。
これが耳小骨に付着すると、耳小骨の動きが妨げられてしまい、振動(音)が蝸牛に届きにくくなります。また浸出液が鼓膜に付着した場合も、振動が妨げられるという意味では同じです。
中耳炎で発生する浸出液は、難聴の原因になりえます。
○耳垢栓塞
通常、耳垢は放っておいても外に排出されるので心配ないのですが、物を噛むあごの動きが弱った高齢者の場合、耳垢がたまってしまい、外耳道を完全に塞いでしまうことがあります。
聞こえ方としては、耳の穴を奥まで小指で力いっぱい塞いだのと同じ状態です。耳垢と思って軽くみてしまいがちですが、これも難聴の原因になります。
○鼓膜穿孔、鼓膜全欠損などの鼓膜の異常
鼓膜は「太鼓の膜」のようなもので、膜に穴がなく、膜は硬すぎず、適度な力で張られており緩んでいない状態で正常に動きます。
逆に鼓膜に穴が空いていたり大きく破れてしまったりすると、上手く振動しなくなります。鼓膜が、このような状態になると、やはり難聴になる可能性があります。
○耳管機能不全による鼓膜の動作不良
鼓膜は太鼓の膜のようなものなので、適度な力で引っ張られており、また緩んでいない状態で、正常に振動します。
そのため鼓膜の内側の空間は、ちょうどいい気圧であることが大切です。
この気圧を調節する管のことを耳管といいます。正常であれば、唾をのんだ時などに、開閉されて気圧が調整されます。
耳管機能不全は、耳管が動かず閉じっぱなし、または開きっぱなしになる病気です。
この病気になると、鼓膜の内側の気圧が調整できず、鼓膜が強く張りすぎたり緩んでしまいます。正常ではない張り具合の鼓膜は上手く振動できなくなり、難聴になる場合があります。1)
※なお耳管機能不全が原因の場合は、耳管が正常に動いた後は、一時的に聴力が良くなるなど、聴力が不安定になる傾向があります。
○耳硬化症
耳小骨は、鼓膜から蝸牛へ振動を伝える役割を持っています。そのため振動が適度に伝わるよう、耳小骨の周りには微かな隙間があります。
耳硬化症は、骨の異常な発達などにより、隙間が無くなったり、耳小骨と蝸牛の入り口がくっついてしまう病気です。振動するために必要な空間が無いため、音が蝸牛に伝わりにくくなり難聴につながります。
先天的な原因による伝音性難聴
○外耳道閉鎖症
誰でも生まれつき外耳道(耳の穴)が骨や軟骨でふさがった状態で生まれてくる可能性があります。耳の穴がふさがっていても、奥にある蝸牛が正常なら伝音性難聴になります。耳の形を整えたり、外耳道を形成するなどの手術で、正常に聞こえるようになる可能性があります。
○先天的な耳小骨の固着、離絶、形成不全
生まれつき、耳小骨および周辺に異常がある場合があります。これは誰にでも起こり得ることです。耳小骨に異常があっても、奥にある蝸牛が正常なら、やはり伝音性難聴です。耳小骨を人工のものに置き換えるなどの手術によって、聴力が回復する可能性があります。
- 伝音性難聴は治療によって聴力が改善する可能性が高い難聴です。ぜひ医療機関を受診して下さい。
伝音性難聴が完治しなかった場合の対策は補聴器
伝音性難聴は手術などで治る可能性がありますが、聞こえづらさが残ってしまった場合、補聴器で聞こえを補っていきます。
伝音性難聴は音を感じる蝸牛のダメージはないため、補聴器により音を大きくするだけで言葉の聞き取りは改善しやすいと一般的にいわれています。
どのような補聴器が使用できるのかご紹介いたします。
浸出液が続いている場合に使える補聴器、使えない補聴器
滲出性中耳炎が慢性化していると、浸出液が外まで出てきてしまう場合があります。耳だれなどと呼ばれます。補聴器には、金属の機械部品があるので、耳だれのような液体が触れれば錆びて故障します。
浸出液(耳だれ)が出ていても使える補聴器をご紹介します。
●RIC型の小さい補聴器は使えない
RICというデザインの小さい耳掛け型補聴器は、耳の穴の中にレシーバという機械部品が入るため、耳だれのある人が使うとすぐに故障します。
○BTE型の補聴器は使える
BTEと言われる耳掛け型補聴器は使用することができます。
BTE補聴器の場合、機械部品が耳の穴の中に入りません。耳の穴に入るのはアクリルなどの素材で作られている耳せんだけです。ただし汚れをそのままにすると、耳栓が詰まって音が出なくなりますし、衛生的とは言えません。頻繁にクリーニングする必要があります。
●通常の耳あな型補聴器は使えない
耳あな型補聴器は、耳の穴の中にすべての部品が入ります。耳だれの出る人が使うと、やはりレシーバという音を発生させる金属部品が痛むため使えません。
○特殊な加工をした耳あな型補聴器
耳だれが出る方、耳だれが一時的に出なくても中耳炎を繰り返す方が耳あな型補聴器を使う場合、耳だれの侵入を軽減させるため、特別な加工をほどこします。
耳だれの量によって、様々な加工方法があります。耳だれの侵入を完全に防げるわけではありませんが、故障のリスクを下げられます。
なお、ご本人やご家族によるクリーニングは必要です。
- 耳の手術を受けた方は、耳の穴の中が変形している可能性があり、補聴器を作るための耳型採型に危険をともなうケースがあります。耳型採取の際は、耳鼻科医に診てもらいましょう。
- 当店ではオトスキャンという耳の型を取るために、専用の3Dスキャナを全店に配備しています。耳の穴が変形していても、安全にオーダーメイドの補聴器や耳せんを作ることができます。
骨伝導補聴器という選択肢も
先に紹介した一般的な補聴器の他に、骨伝導という仕組みを活用した特殊な補聴器があります。骨伝導の補聴器は、耳だれの出ている方や、外耳道閉塞症の方でも使うことが出来ます。
○骨伝導補聴器(メガネ型、カチューシャ型)
○BAHA(骨固定型補聴器)
手術によって頭の骨に補聴器を埋め込み固定するタイプです。
適応には様々な条件2)があります。詳しくは耳鼻科の先生にご相談ください。
○軟骨伝導補聴器
近年、開発された新しいタイプの補聴器です。外耳道閉鎖症などの方が、手術を受けずに使うことが出来ます。一部の医療機関のみの取り扱いになります。
骨伝導補聴器について、価格や合う人・合わない人については、詳しい記事があります。そちらをご覧ください。
骨伝導補聴器4種類、特徴やデザイン、価格について
補聴器が必要になったら試聴サービスを使いましょう
伝音性難聴は治る可能性のある難聴のため、まずは補聴器よりも医療機関での治療が優先されます。治療が完了しても難聴が残った場合には、補聴器で聞こえの改善を目指していくことになります。
その場合は、いきなり補聴器を購入するのではなく、十分に効果を確認できる試聴サービスを利用してから購入を検討しましょう。
引用
1)小林 俊光,専門医講習会テキストシリーズ耳管機能不全の診断と治療―耳管閉鎖障害の診断―,日本耳鼻咽喉科学会会報122 巻(2019年),10 号,p. 1361-1365,2019
2)日本耳科学会公式ホームページ,『骨固定型補聴器(Baha®システム)の適応基準(2019)』,https://www.otology.gr.jp/common/pdf/baha2019.pdf(最終閲覧日2020/9/14)
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
たくさんの難聴の方々に、もっとも確実によく聞こえる方法をご提供することが私たちのミッションです。
監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
なお古いページについては執筆当時の聴覚医学や補聴工学を参考に記載しております。科学の進歩によって、現在は当てはまらない情報になっている可能性があります。
※耳の病気・ケガ・治療、言語獲得期の小児難聴や人工内耳については、まず医療機関へご相談下さい。