難聴の原因になるメニエール病とこれに対応した補聴器について
メニエール病は、まず第一に病院の治療を受けて下さい。適切な治療が回復に繋がります。
メニエール病は、世界がグルグル回転するようなめまいが繰り返し起こります。同時に、耳鳴りや難聴などの症状を伴う病気です。発作を繰り返すことで日常生活に様々な支障が出ます。なお同じ症状でも、繰り返さない場合はメニエール病とは呼びません。まず第一に病院で診断してもらい、適切な治療を受けましょう。このページではメニエール病についてご紹介します。
もしメニエール病で難聴になり、生活や仕事が不便になっても、補聴器を使うことで生活を快適、かつ便利にすることはできます。治療を受けて症状が安定し、難聴にお困りのことがあれば、ぜひ私たちプロショップ大塚までご相談ください。
メニエール病って、どんな症状? 原因は? 再発するの?
メニエール病は、めまいを伴う耳の病気で、難聴の原因にもなります。初期の主な症状は、世界が回って感じる回転性のめまいと、片耳の難聴・耳鳴り・耳の閉塞感があります。ほとんどの人は、なんの前触れもなく症状が起こり、吐き気を伴うこともあります。
めまいは発作的で、10分から数時間ほど持続します。この時間の間は立っていることもままならず、じっと横になっていることしかできません。
数時間ほど経過すると一時的な難聴や耳鳴りの症状はおよそ回復します。しかし発作を何度か繰り返すと、少しずつ聴力が低下していきます。
メニエール病の原因は、ストレス?
メニエール病が発症する原因は、まだ解明されていません。
しかし、メニエール病にかかりやすい人の傾向は分かってきており、具体的には30~50歳代の女性が多く発症すると言われています。
そのため、メニエール病にかかりやすくなる要因として「精神的なストレス」「肉体的な疲労」「生活習慣の乱れ(特に睡眠不足!)」などが上げられています。
これらの他、気圧の変化がメニエール病の発症に関わっていることがわかっています。
メニエール病になると耳の中で何が起こっているの?
メニエール病になると、身体の中では何が起きるのでしょうか。
耳の奥には、実は様々な器官があり、その一つに蝸牛というものがあります。
メニエール病は、耳の奥にある蝸牛の中のリンパ液が増えすぎて、むくんでしまっている状態です。
この状態のことを「内リンパ水腫」といいます。
蝸牛は、音を感じ取るために重要な器官ですから、ここがむくんでしまうと、聴力に影響が出てきます。
また、この蝸牛の隣には、蝸牛とつながる形で三半規管や前庭などの部位があります。この二つは身体の平衡感覚に関わっています。蝸牛と同じく、健康な状態であれば、内側は一定の量のリンパ液で満たされています。
こちらも何らかの理由で、リンパ液の量が増えすぎてしまうことがあります。平衡感覚に関係する器官ですから、この部分がむくんでしまうと、めまい症状が出てきます。
蝸牛、三半規管、前庭のどの部分であれ、リンパ液が過剰になることを内リンパ水腫といいます。内リンパ水腫になる原因は様々ですが、その中で特に原因がはっきりしないケースを「特発性内リンパ水腫」といいます。特発性内リンパ水腫の中でも、症状が繰り返されると、メニエール病と呼ばれます。
メニエール病の場合は、内リンパ水腫がいったん落ち着いても、期間をおいて繰り返し何度も、内リンパ水腫の状態になってしまうのです。
多くは片耳だけの発症ですが、両耳とも発症する方もいるようです。
聞こえに関わる「蝸牛」がダメージを受けると、難聴になります。
蝸牛への影響が少なく、主に平衡感覚に関わる前庭系へのダメージが大きいと、難聴の症状は少なく、めまいの症状だけが出る場合もあります。
メニエール病の症状とは?
●めまい
メニエール病のめまいは、8割が回転性めまいと言われています。
自分や周囲のものがグルグル回り、まっすぐ歩けなくなり、立っていることもままなりません。
また、メニエール病のめまいの特徴として、繰り返し起こります。繰り返す頻度にはばらつきが多く、1週間に何度も起こる方もいれば、年に数回程度の方もいます。
発作が起きる特別なきっかけはほとんどありません。一度、めまいが起こると、1~12時間ほど続きます。
- メニエール病のめまいが起きている人の瞳をみると、左右に黒目がククッと細かく揺れているのがわかります。
- これは眼振といわれるものです。
- 眼振にはいくつか種類があり、それを調べることでめまいの原因がどこにあるのかを推測することができます。
●吐き気
めまいの発作とともに、乗り物酔いと同じ状態になり吐き気を感じる人もいるようです。めまいがなくても、吐き気だけする場合もあります。
●耳鳴り
めまいの発作とともに、「ジージー」「ゴーゴー」「ザーザー」といった耳鳴りを感じる場合があります。
めまいの発作がおさまると、同時に耳鳴りもおさまるようです。
発作を何度も繰り返している場合は、めまいの症状がおさまっても耳鳴りだけが続いてしまうこともあります。
●難聴
メニエール病による初期の難聴では、高い音よりも低い音(低い周波数の音)が聞こえにくくなります。難聴になると、音や声がぼんやり聞こえたり、こもって聞こえるようになります。
また話しかけられても、気づかないことが出てくる場合もあります。
難聴はめまい発作と同時に発症します。発作を何度も繰り返している場合は、めまいの症状がおさまっても聴力が発作前まで戻らず、難聴が続いてしまうこともあります。
●補充現象
難聴になると、小さな音が聞き取りにくくなります。
しかし、実はそれだけではありません。難聴の種類によっては大きな音の聞こえ方も変わってくる場合があるのです。
メニエール病に限らず、聞こえに関わる「蝸牛」に何かが起こって難聴になると、補充現象と呼ばれる症状がみられることがあります。
これはちょっとした音の変化でも、非常に大きい変化の様に感じてしまう現象です。
補充現象がみられる方の場合、音がほんの少し大きくなっただけで、とてもうるさく不快に感じてしまうようになります。
●耳の閉塞感
エレベーターで高層階に上がったときや、飛行機に乗ったときの様に耳が詰まったような感じになる状態です。エレベーターや飛行機の時の詰まった感じは気圧が急激に変わったことにより起こり、通常は唾を飲み込むなどの対処で治ります。
しかし、メニエール病による耳の閉塞感は、難聴によって低い音が聞こえにくくなったせいで起こるのです。この場合は唾を飲み込んでも改善しません。
●浮動感
めまいの発作を繰り返すうちに、平衡感覚に関わる三半規管や前庭がダメージを受け、発作が出ていない時でもフワフワと体が浮いたように感じてしまうことがあります。
- メニエール病の発作が起きた時にバランスを崩し、転んでケガをしてしまう方もいらっしゃいます。欧米ではこれを「ドロップ・アタック」とよんでいます。
- 頭を打つなどしては大変なので、もし可能であれば屋外であっても、ムリに立とうとせず座り込んでもらった方が良いでしょう。
メニエール病が進むとどうなるの?
メニエール病は、症状の出ている発作期と、目立った症状のない間歇期を繰り返します。
●発作期
めまいの発作が起きている時期です。
発作が起きる原因は良く分かっていませんが、めまいに先駆けて難聴や耳鳴り、耳の閉塞感など、聞こえの症状が出ることがあります。
めまいの発作が落ち着くと、難聴は軽快していきますが、完全に元通りにならない場合があります。
●間歇期
発作期と発作期の間です。
この期間は長い方で半年以上、短い方で数日程度と、個人差が大きくあります。間歇期の間は強いめまい症状はありません。
しかし、中には体がフワフワした感じになる方もいるようです。
発作期と間歇期を繰り返しているうちに、徐々に聴力が低下します。
メニエール病が長期に渡ると、めまいがいつ起こるかわからない、起こってしまうと何もできなくなってしまうということから、仕事を辞めてしまったり、外出すること自体が怖くなったりしてしまう方もいます。
急なめまいや難聴になる病気は、たくさんある
めまいや難聴の相談は、めまい外来や耳鼻咽喉科の受診がおすすめです。
めまいや急な難聴になる病気は、メニエール病だけではありません。
症状が繰り返す病態のことをメニエール病と呼ぶため、一回目の診察でメニエール病と診断されることはあまりないようです。
メニエール病には診断基準がある
日本めまい平衡医学会は、メニエール病の診断基準を定めて、医療従事者向けに公開しています。
一般に診断基準というものは、医学の発展に伴って、変わっていくものです。
2022年現在のメニエール病の定義の一つは「めまい発作を反復する。めまいは誘因なく発症し、持続時間は10分程度から数時間程度」というものです。特に重要なのは「反復する」というキーワードです。
めまいや難聴・耳鳴りが一回起きただけでは、メニエール病とは判断できません。
ただし繰り返したからといって、必ずしもメニエール病とも限りません。
いくつかの症状が当てはまり、かつメニエール病以外の病気の疑いを除外できたときに初めてメニエール病だと診断されるようです。
なお、めまいと難聴が併発せず、どちらか片方だけを繰り返すメニエール病もあります。その場合は「メニエール病非定型例」と呼ばれるようです。
メニエール病と症状が似ている病気とは?
メニエール病と症状が似ている病気は、数多くあります。
耳の病気で例をあげると「良性発作性頭位めまい症」「前庭神経炎」「(めまいを伴う)突発性難聴」「急性低音障害型感音難聴」「外リンパ瘻」「聴神経腫瘍」「内耳梅毒」などです。
そのほかにも、脳卒中などを始めとした脳の病気も、似た症状が起きることがあります。
めまいや難聴という同じ症状でも、病気にはこれだけ種類があります。
これらを自分で判断することは、まず不可能でしょう。
めまい外来もしくは耳鼻咽喉科のある病院に行けば、これらの病気は診断してもらえます。それぞれの病気に合わせた治療が受けられます。
回転性のめまいや、急に耳が聞こえなくなった場合は、早期の治療がとても大切です。
症状を自覚したら軽く考えず、24時間以内を目標に、できるだけ早く、病院を受診しましょう。
めまいや難聴で病院に行くと、どんな診察や検査を受けるの?
めまいや難聴の症状がある場合、耳鼻咽喉科を受診することになります。
病院ではいくつかの検査を受けることになるでしょう。これは原因として考えられる病気が複数あり、治療方法が異なるためです。
めまいや難聴で病院にかかった時に、受ける可能性のある検査をご紹介します。
平衡感覚検査
めまいについて詳しく調べるためにバランス感覚を検査します。
地面にまっすぐ立ってバランス感覚を調べたり、眼球の動きを観察したりすることで、めまいの原因が耳なのか脳なのかを判断します。
聴力検査
健康診断で行う聴力検査の、より詳細なものです。キーの低い音から高い音まで、音の周波数ごとに、聞こえる音の大きさを測定します。
- 聴力検査を受けると、検査結果はオージオグラムという表にまとめられます。
- オージオグラムの読み方の解説はこちらをご覧ください。
- 難聴レベルってなに?聴力検査の結果(オージオグラム)の見方
内リンパ水腫推定検査
内リンパ水腫であることを確認するための検査には、いくつか種類があります。
●グリセロール検査
内リンパ水腫による難聴の場合、グリセロールという薬を服用すると、一時的に聴力が改善します。
聴力が改善したかどうかを検査し、内リンパ水腫があったかどうかを推測します。
●MRI検査
あまり一般的では無いようですが、特殊なMRIを行い、蝸牛に内リンパ水腫があるかを確認する病院もあるようです。
画像で蝸牛の状態を確認できるため、グリセロール検査などと比較して、より高精度に内リンパ水腫の有無を確認できるようです。
どんな治療で治るの?再発するの?
メニエール病の治療方法は、めまい発作後の時期によって変わってきます。
●発作期の治療
発作期は、めまいの軽減や難聴の改善を目的に治療が行われます。
めまいに対しては、抗めまい薬や吐き気止め、抗不安剤などが使用されますが、これらはめまいへの対症療法です。
難聴に対しては、ステロイド剤や血流改善薬(内耳循環改善薬)が用いられているようです。
●間歇期の治療
間歇期の治療では、めまいの発作が再発しないよう、予防が主な目的とされています。
ビタミンB12や漢方薬、抗不安剤などの薬や、生活習慣の指導などが行われているようです。
●発作が繰り返されたり、症状が重篤な場合
服薬や生活習慣の改善などを行っても、めまいの発作が繰り返されてしまうことがあります。
治りにくいメニエール病の場合は、段階を踏んで処置や手術をすることもあるようです。
メニエール病による難聴の方が、補聴器を使う場合は?
メニエール病で難聴になり、生活や仕事が不便になっても、補聴器を使うことで生活を快適、かつ便利にすることはできます。メニエール病の難聴は、お年とともに聞こえにくくなる一般的な加齢性の難聴と症状がまったく異なるため、補聴器の選択・調整も症状を考えて行う必要があります。
私たちがメニエール病の方に補聴器を提案する場合に考慮していることは主に3つあります。
1)仮に発作を繰り返し、もし難聴が進行したとしても、継続的に使える器種を選ぶこと。
2)もし大きな音に対する不快さを感じる補充現象が強くあれば、その対策機能があること。
3)メニエール病の初期においては、低い周波数から聞こえが低下しやすいので、それに合わせた調整が可能な器種を選ぶこと。
もし難聴が進行したとしても、継続的に使える器種
メニエール病による難聴の場合、発作による一時的な聴力の低下、急性期が終わった後にも難聴の進行が可能性として考えられます。
メニエール病の方が補聴器を使う場合、難聴の症状が進行した場合の備えは必要だろうと思います。
補聴器を選ぶ際は、聴力に合わせたレシーバ(スピーカーのような部品)の交換ができる小型耳かけ型補聴器(RIC)がおすすめです。
補聴器の最大音量、最大増幅量は、主にレシーバのサイズで決まります。
レシーバが交換できる小型耳かけ型補聴器(RIC)であれば、万一、難聴が進行したとしても、補聴器を買い替える心配がありません。
レシーバ部分を交換するだけで、難聴の進行に対応できます。
※レシーバ部分のパーツ代は別途費用が発生しますが、10,000円前後ですから、補聴器を買い替えるよりとてもお安くすみます。
- 器種やメーカーの制限はありますが、一部のオーダーメイド耳あな型は、レシーバサイズを変更する“作り直し”が可能です。
- メニエール病で耳あな型補聴器をご希望の方は当店までご相談ください。
補聴器で、補充現象の対策
メニエール病では、大きな音が聞こえすぎて不快に感じるような、補充現象が現れることもあります。補聴器を使った音への過敏さ(補充現象)の対策には2種類あり、両方を行うのがおすすめです。
対策①不快閾値の測定、それに合わせた音質調整
音に対する不快さは、一人ひとり異なり、検査で調べて、数値で表すことができます。
これを不快閾値といいます。
大きな音に対して不快さを感じる方に補聴器をご提案する場合、当店では不快閾値を測定して、それ以上の大きな音が出ないように音質を調整してお渡しします。
対策②補聴器の衝撃音抑制機能
一部の補聴器は、大きな音の不快さを抑制するための機能が備わっています。
補聴器メーカーによって呼び方は少し変わりますが、衝撃音抑制もしくは突発音抑制などといいます。
この機能は食器がぶつかったり、勢いよくドアが閉まったりというような、突発的な大きな音が発生した時、自動的にこれを小さくするものです。
大きな音に強く不快感を感じる方には、突発音抑制機能が付いている補聴器をお勧めしています。
詳しくはお問い合わせください。
低い周波数の聞こえの低下に対応した補聴器と、その音質調整
近年の補聴器の多くは、加齢性の難聴に対応するように開発されています。加齢性の難聴は高い周波数の音から聞こえにくくなります。
メニエール病は低い周波数の聞こえから低下しますから、ある意味では逆です。
低い周波数の音質を、精緻に細かく調整できる器種は限られています。同じメニエール病でも、最適な器種は一人ひとりの聴力によって変わりますので、ご来店いただき、ご相談いただければと思います。
聴力測定した上で、ご提案させていただきます。
<まとめ>結局どうしたらいいのか?
メニエール病で、めまいや聞こえに困る症状が出てきたら、まず第一に病院の治療を受けて下さい。
初期症状の軽いめまいや耳鳴りが続いても、日々の疲労のせいだと思い込み、見過ごしてしまう方はたくさんいます。初期治療が大切です。症状を感じたら、すぐに受診することをおすすめします。もしもお近くの病院に、めまい外来があれば、そちらがおすすめです。
治療を受けて症状が安定し、聞こえにお困りのことがあれば、ぜひ私たち補聴器の専門家にご相談ください。
聞こえのお困りごとに合わせて、適切な補聴器をご提案させていただきます。
参考文献
日本めまい平衡医学会(編),『メニエール病・遅発性内リンパ水腫診療ガイドライン2020年版』,金原出版,2020
松村讓兒 他(監),『病気が見える vol.13耳鼻咽喉科』,メディックメディア,2020
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
たくさんの難聴の方々に、もっとも確実によく聞こえる方法をご提供することが私たちのミッションです。
監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
なお古いページについては執筆当時の聴覚医学や補聴工学を参考に記載しております。科学の進歩によって、現在は当てはまらない情報になっている可能性があります。
※耳の病気・ケガ・治療、言語獲得期の小児難聴や人工内耳については、まず医療機関へご相談下さい。