突発性難聴の症状、ストレスが原因?治る可能性は?
突発性難聴は、2週間経過すると聴力が回復しなくなってしまいますが、1週間以内に治療を開始すれば、40%の人が完全に治るようです。
治療法とやってはいけないことをご紹介します。
突発性難聴の症状
突発性難聴は、片耳が突然聞こえにくくなる病気
突発性難聴はその名のとおり突然聞こえが悪くなる病気です。一般的に片耳のみに発症し、一度発症すると再度発症することはないといわれています。聞こえにくさの度合いは人によって様々で、ごく軽い難聴のこともあれば重度の難聴になってしまうこともあります。
- 現在、最新の日本聴覚医学会の手引き1)では、突発性難聴の発症から早期に治療することが推奨されています。治療開始が遅れた場合、難聴の改善は難しくなってしまうようです。
- さて、どれくらい早ければ「治療完了後に回復する可能性が高い」のでしょうか。これについては過去30年以上、今でも議論が続いており、ハッキリしていません。
- 最新の論文では、入院して治療を受けた場合でも、治療開始が発症から8日以上になってしまうと、聴力が改善しない人が63.2%になると報告されています。2)また他の論文では「50歳以上の方の場合は、発症から4日以上になると改善率が低下する」と報告されています。3)
- 突発性難聴の治療を受けるのは、早ければ早いほど良いことは間違いなさそうです。
突発性難聴の症状(前兆)4つ
突発性難聴は難聴だけでなく、他の症状が発生し、そちらが先に気になることもあります。初期症状(前兆とも言います)に気づいたときは見逃さず、すぐ耳鼻科を受診しましょう。突発性難聴だった場合、早期に治療を開始することで完治する可能性が高まります。
感じ方は個人差があるので、実際に突発性難聴になった方の言葉を紹介します。
①「耳がこもった感じ」「詰まった感じがする」
突発性難聴の初期には「聞こえにくくなった」という感想ではなく「こもった感じ」や「詰まった感じ」が生じる可能性があります。これは低い音が聞き取りづらくなることで生じる症状で、耳がボーッとしたり音がくぐもって聞こえると表現する方もいらっしゃいます。
②「聞こえがおかしい」「音が響く、割れて聞こえる」
突発性難聴を発症すると聞こえにくくなるだけではなく、音が響くような感じや割れて聞こえるなど、異常な聞こえ方になることがあります。
③「平衡感覚がおかしい」「ふらふらする」「めまいがする」
突発性難聴を発症した前後に一度だけ強いめまいを感じる方がいらっしゃいます。めまいは突発性難聴を発症した方の40%にみられる症状です。難聴そのものとは異なり、めまいは短時間で終わり、それ以降繰り返すことはありません。めまいの症状はグルグルするめまい・ふわふわするめまいのどちらも起こり得ます。
④「耳鳴りがする」
耳鳴りは聴力低下にともなって生じるケースが多いです。聴力低下が軽い場合、難聴を自覚せず耳鳴りだけを感じることがあります。なお初期症状ではないのですが、聴力が低下して数日後に耳鳴り症状が出てくることもあります。
- 突発性難聴は、上で書いたような初期症状のあと、数日経過してからガクっと大きく聴力低下する可能性があります。治療が有効なのは発症から最長14日以内です。初期症状を見逃して、その後にガクッと聴力が低下すると、病院で治療を受け始めるのが遅くなってしまいます。初期症状(前兆)を見逃さないようにしましょう。
突発性難聴の原因
突発性難聴の原因はまだ解明されていません。過去様々な研究が行われてきましたが、今でも研究者の間で議論が続いています。ここでは、突発性難聴の原因として有力な説を5つご紹介します。
・ウィルス感染説
何らかのウイルスに感染したことにより突発性難聴になってしまうのではないかという説です。ウィルス説の中でも有力な原因と考えられているのは、帯状疱疹ウイルスや単純ヘルペスウイルスです。5)6)
・内耳循環障害説
耳の中の血管が何らかの理由で傷ついたり、ふさがってしまったりして、音を感じ取る細胞がダメージを受けてしまうことが原因ではないかという説です。
・活性酸素、フリーラジカル説
体内の抗酸化力が低下すると活性酸素やフリーラジカルというものが増加します。これらが過剰に増加することで体に悪影響を及ぼすと考えられていますが、音を感じ取る細胞も同様にダメージをうけ突発性難聴も生じるという説です。7)
・細胞内ストレス制御機構の亢進説(ストレスレスポンス説)
ストレスを感じるとNF-κBというタンパク質が活性化し、炎症を引き起こす物質を発現させます。その影響で音を感じる細胞がダメージを受け突発性難聴が生じるという説です。NF-κBという因子が活性化してしまうのは様々な要因が関わっており、それらが同時にそろうことは稀であるため、突発性難聴が再発することも稀であるといわれています。8)
・ストレス説
ストレスが上記の説の原因になっているという説です。心理的なストレスや過労などにより免疫が低下し、難聴の原因となるウイルスが活性化したり、交感神経が異常に活性化してしまうことで耳の中の血管が動脈硬化を起こしてしまい突発性難聴を発症してしまうのではないか考えられています。
突発性難聴の治療
突発性難聴の治療は”安静にする事”と”薬の投与”の二つが主流です。一般的にはまず最初にステロイド(副腎皮質ホルモン)が使用されます。
病院で突発性難聴と診断された場合の治療と料金についてご紹介します。
医療機関で行われる治療方法
治療は、一般的にステロイドが使われます。飲み薬の場合、点滴の場合、どちらもあります。またステロイド以外のお薬や処置を組み合わせての治療を行っていくこともあるようです。1)9)10)
治療方針や内容は医師の診断で決まります。治療時は必ず医師の指示に従ってください。
・ステロイドの飲み薬または点滴
炎症を抑えるために投与します。投与方法は飲み薬や入院しての点滴、お耳の中に注射する鼓室内注入療法があります。日本耳鼻咽喉科学会の手引きではステロイド剤の投与が第一選択となっています。
・ステロイドの鼓室内注入療法
耳の鼓膜の奥へ、注射でステロイドを注入する治療方法です。
・血管拡張剤、血流改善剤
血流を良くすることで、内耳の血の巡りを良くしていきます。飲み薬が一般的ですが、点滴で投与される場合もあります。
・ビタミンB12
神経の修復を促し、末梢神経の障害を改善するために使用します。こちらも飲み薬が一般的ですが、点滴で投与される場合もあります。
治療期間と一般的な費用の例
下記の金額は、医療費の3割を自己負担した場合です。ここで紹介するのはあくまで一例です。治療期間は一人ひとり異なります。また治療完了は医師の判断となります。
・治療がステロイドのみ、入院しなかった場合
通院が3回程度で終わった場合はお薬の種類にもよりますが、飲み薬代を含めて金額は概ね10,000円程度。
・難聴が重度の方や糖尿病などの合併症のある方が入院した場合
この場合はおそらく点滴になると思います。回復・改善の状況によって異なりますが、入院期間は概ね8日。金額は3割負担の方で概ね100,000円程度に加えて差額ベット代となります。ベッド代は病院によって大きく異なりますので、病院へご確認ください。
・ステロイドを耳に注射(鼓室内注入)の場合
ここでは飲み薬と併用しての通院の場合をご紹介します。例えば4回通院し、その都度注射をすると、料金は概ね10,000円。通院期間が長くなり8回になった場合でも、料金は20,000円以内になると思います。
治療した結果の完治率と改善率
突発性難聴は発症してから1週間以内にステロイドなどの治療を開始すれば、40%は完治するといわれています。しかし、50%の方は改善しつつも、元通りにはならず難聴が残ってしまいます。残りの10%ほどは、治療の効果が見られないようです。11)
病院へ行くまでやってはいけないこと
治療への不安、忙しくて受診が出来ない、入院することになったら困るなどの理由から様子を見ていたいとお考えの方もいると思います。突発性難聴は放置すると、難聴の症状が固定してしまう可能性があります。
病院へは、必ず初期症状から2週間以内に行っていただきたいです。その上で、今すぐ病院へ行けない方は、下記の「やってはいけないこと」を避けて生活して下さい。
下記は、症状をさらに悪化させる可能性があります。
・喫煙、ニコチンの摂取
・多量の飲酒
・カフェインの摂取(コーヒー、お茶、栄養ドリンクなど)
・不規則な生活習慣、短い睡眠時間
・大きな音や音楽を聴く(外出時、特に電車・バスに乗るときはぜひ耳栓を使ってください)
・過労やストレス(なるべく安静を保ってください)
治療しても難聴が残ったときは補聴器を含めた対策があります。
聴力が元通りには回復せず、難聴が残った場合は仕事と生活に影響があります。その場合でも生活の中で感じる不便さを減らすコツや補聴器を使った対策があります。
引用・参考文献一覧
1)一般社団法人 日本聴覚医学会編,急性感音難聴の手引き 2018年版,金原出版株式会社,2018年
2)浅野敬史他,「ステロイド大量・PGE1 併用療法を行った突発性難聴324例の治療成績」,『日本耳鼻咽喉科学会会報』,123 巻 (2020) 1 号,2020,p. 40-47
3)窪田俊憲他,「突発性難聴に対するステロイド大量・PGE1併用療法の早期治療開始による効果」,『日本耳鼻咽喉科学会会報』,115 巻 (2012) 5 号,2012,p. 540-545
4)角田保雄他,「初診後も聴力が変動悪化した突発性難聴症例」,『耳鼻咽喉科臨床 補冊』,1993 巻 (1993) Supplement68 号,1993,p. 88-92
5)森弘他,「ウイルス感染よりみた突発性難聴 付・ウイルス感染とベル麻痺」,『耳鼻咽喉科臨床』,76 巻 (1983) 2special 号,1983,p. 462-469
6)田中克彦他,「突発性難聴とウイルス感染」,『Otology Japan』,1994 年 4 巻 2 号,1994,p. 130-136
7)伊藤まり他,「急性感音難聴症例における酸化ストレス度の検討」,『耳鼻咽喉科臨床』,101 巻 (2008) 10 号,2008,p. 743-748
8)神崎仁他,「聴覚に関わる社会医学的諸問題「ストレスと感音難聴に関する考察―特に突発性難聴との関係について―」,『AUDIOLOGY JAPAN』,2013 年 56 巻 2 号,2013,p. 137-152
9)Robert J. Stachler他,「Clinical Practice Guideline: Sudden Hearing Loss」,『Otolaryngol Head Neck Surgery』,2012 Mar;146(3 Suppl):S1-35
10)神崎昌,「突発性難聴の最近の動向」,『日本耳鼻咽喉科学会会報』,2017 年 120 巻 8 号 ,2017,p. 1100-1101
11)突発性難聴について | e-ヘルスネット(厚生労働省) https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/sensory-organ/s-001.html(最終アクセス日2020.07.04)
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
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監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
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