補聴器をいやがる/つけたがらない高齢者が「難聴じゃない!」と言い張る理由
難聴の高齢者が補聴器をいやがる理由はいくつかありますが、そのうちの一つにご本人が難聴を自覚していても、それを受け容れず否定している場合があります。
本記事では「難聴の事実を受け容れられない高齢者の心理」について解説します。補聴器を使って欲しいと思っているご家族へのアドバイスもご紹介します。
補聴器をいやがるのは”難聴の受容”が難しいから。
一般的な高齢者は、難聴で困っている自覚があれば、補聴器を使うことを検討します。困っている自覚が強いほど、補聴器に積極的です。しかし難聴で困っている自覚があっても、なお補聴器をいやがる高齢者がいます。
高齢者が「自分は難聴である」という自覚を持つことと、難聴の自覚があっても「難聴の事実を受け容れられない」心理は、別のことです。個人差はありますが、高齢者の気持ちの中で「難聴を認めたくない」という感情は、とても強力です。
たとえば家族が「補聴器を使って欲しい!」と希望している場合、ご本人に難聴の自覚が無い場合と、自覚があっても難聴の事実を受け容れられない場合では、補聴器の薦め方を変えた方が良いでしょう。
今の自分を、そのまま受け容れることを”受容”といいます。難聴を受容できない高齢者の心理とは、どのような状態でしょうか。
自分の難聴に気づいても、それを認めたくない高齢者
難聴の高齢者が、自分の難聴を認めたくない心理や感情にはいくつかのバリエーションがあります。
1)難聴を老化や大病と結びつけて考えている
高齢者は何かしらの健康問題を抱えていることが多いです。高血圧、高血糖、腰痛、神経痛など様々です。高齢者にとって、いわゆる健康問題はとても身近で重要な話題です。
難聴を受け容れない高齢者は、自分の難聴と大きな病気とを結びつけて考えてしまっている場合があります。大きな病気を心配し、難聴の話題を丸ごと怖がっている可能性があるのです。
こういった健康問題を過剰に心配している場合、専門家のカウンセリングで安心できる場合があります。
たとえば専門家の説明では、人間の聞こえる仕組み、難聴がどのように悪化するのか、難聴が認知や心へ及ぼす影響について、具体的にご説明します。同時に「難聴が影響しないこと」もご説明します。
具体的なエピソードでは、血管にステントを入れているお客様が、ご自分の難聴を過剰に心配されていた事例があります。
この方の場合は「血管の老化現象は、聴力低下の一つの要因になりえます。もちろん、すべての難聴者の血管にダメージがあるわけではありません。また難聴が原因になって、血管にダメージが発生することもありません」というご説明で、難聴に関する過剰な不安が解消されました。
2)難聴を恥や罪だと感じている場合
心の中で、自分が難聴であることを恥ずかしいと感じる方もいます。
家族や友人との会話の際、自分が難聴のために迷惑をかけ、相手の負担になってしまうことを”自分が悪い”と感じてしまうのです。
自分の難聴が悪いことと思ったとき、積極的に解決しようという気持ちになるとは限りません。ご本人が簡単に解決できることなら、解決に向かって行動するでしょう。しかしご本人にとっての難聴問題は、どうしたら解決できるのか、もしくは解決できないのか、よく分からない難しい問題です。
罪悪感を感じながら、こういったよく分からない状態に陥ると、難聴の理解や問題の解決を諦め「私は悪くない!」ということにして、難聴の存在をすべて否定する気持ちにつながっていきます。
こういった心理の高齢者の場合、有効な対策は、他の難聴者と関わりをもち、話を聞いてみることです。70歳代のおよそ50%は難聴になりますから、高齢者であれば、そんなに苦労せず難聴の知人を見つけることはできると思います。同窓会などがあれば、連絡先を交換して、難聴の人や補聴器を使っている人の意見を聞いてみると良いでしょう。
難聴である事実に対して、難聴のご本人がどう感じているかは千差万別です。
・恥ずかしいと思っているのか?
・当たり前の老化現象として受け容れているのか?
・補聴器などで解決して恥ずかしいという思いが解消されているのか?
自分の難聴を受け容れられない高齢者も、同じ高齢者から難聴への向き合い方を聞くことができれば、徐々に考えが変わっていきます。
最初は「難聴になった自分は恥ずかしい」と考えていた高齢者でも、自分が悪かったり恥ずかしいのではなく「難聴になるのは当たり前」という考えになり、その後「会話に困っている事実」を素直に受け容れられるようになっていきます。
この段階まで来ると、かたくなに補聴器をいやがることは無くなってきます。
難聴を受け容れられず、葛藤している人の声。
難聴を受け容れられない高齢者は、聞こえないことへの悔しさや歯がゆさを感じており、それをごまかそうとしている場合もあります。こういった状態では、自分の難聴を素直に受け容れることが難しくなります。
人によって考え方の違いがとても大きいのですが「自分の難聴を受け容れるのに、時間がかかった人の声」をご紹介します。
「(難聴であることが)もう情けない」
このセリフを涙を浮かべながら言った方がいます。比較的、古い世代の高齢者には「他人に迷惑を掛けてはいけない」と教えられ育ってきた方が多くいます。彼らは自分のことは自分でするのが当然であり、機械の力を借りることを情けないと考えることがあります。
会話という当たり前のことが上手く出来なくて「恥ずかしい」
聞こえない事が恥ずかしい、普通の人より劣っていると思われそうで心配、相手の質問に間違った返答をしていないか不安、あの人は聞こえていないと他人に気づかれたくない。こういう気持ちや考えになっている方は、人と会話する時、大きな声で一方的にマシンガンのように話し続けることがあります。
「まだ、そんな年じゃない!」・・・老化を認めたくない、認めない、認められない。
静かな場所なら聞こえる。(相手の)話し方が悪い。ぼそぼそ話されたら分からない。会話の困難さを自覚していても、自身の老化を認めず否定してしまうと、原因を他人や環境に求めたくなります。
将来の健康悪化を恐れるあまり、見て見ぬふり
加齢によって人の身体は少しずつ衰えていきます。そうすると一部の高齢者は、将来の健康悪化を恐れるあまり、自分の身体の不調に気付いても無視しようとします。実際に「検査しても悪いところが見つかるだけで、治るわけじゃない」という方もいました。
この見て見ぬふりがクセになってくると、難聴について自覚があっても、否定して受け容れなくなってしまいます。
「(難聴は)歳のせいだから、仕方ないよ」という過剰な受容、悟りの世界。
年齢と共に聴力が衰えることは普通のことなのですが、それに対して”補聴器を使うような解決すべき問題ではなく、問題を含めて、そのままを受け容れるべき”という心理になっている方もいます。しかし実際に補聴器を体験して、生活が改善すると前向きになることが多いです。
高齢者が、自分の難聴を受け容れる前の心は複雑です。すでに難聴による困りごとを自覚している高齢者が、補聴器を拒否したら、ここでご紹介したような深い気持ちの問題を抱えている可能性があります。その結果として、難聴を受け容れることが出来なくなっているかも知れません。
こういった心理にある方が難聴を受け容れるには、ご本人の勇気と応援者によるケア、両方が必要です。
難聴を受け容れるには、本人の勇気と応援者が必要
本人の勇気は、ら困りごとが小さなうちから、他人に相談してみること。
少しでも会話に不安を感じた、まずは耳鼻科を受診しましょう。また、補聴器専門店に相談へ行くことも良いでしょう。間違った情報に踊らされる心配がなくなりますし、聴力測定を受ければ記録が残ります。
そして一度でも専門家に会って話を聞いておくと、その後、本当に困った時に相談しやすくなります。だれしも、初めての経験には腰が重くなるものです。相談だけの最初の一歩を、早めに経験しておくことが、ご本人の勇気です。
応援者として家族にできることは根気よく待ち、準備して、タイミングを選ぶこと
補聴器を使ってくれない難聴者が家族にいると「早く補聴器を使ってくれればいいのに」「本人だって会話が便利になるのに」「私たちも助かるのに」と、思ってしまいがちです。
しかし、ここまでご紹介した通り、ご本人に難聴の自覚があったとしても、難聴を受け容れていなければ、誰かに相談することを固く拒否するでしょう。
家族にできることは、まず情報を知り、良いタイミングを選ぶことです。
難聴の知人とお話する機会があれば、ご本人の許可を得た上で、難聴の体験談と向き合い方を聞いてみると良いでしょう。
もしご本人が「専門家の話を聞いても良い」と言ってくれれば、耳鼻咽喉科の難聴外来や、補聴器専門店に連れてきていただければ、先に紹介した通り、難聴についての知識を得られます。よく分からない不安をいくらか解消することが出来ます。
補聴器の専門家が、応援者としてできること。
私たち補聴器の専門家は、難聴で困っている自覚がない高齢者に補聴器を勧めません。ご本人が難聴による問題を解決したいと思っていなければ、ほとんどの場合、補聴器を拒否されてしまうためです。
補聴器をいやがっている高齢者の方へ、私たちがお役に立てることは下記のようなことです。
「年をとれば、だれでも難聴になり、それが普通であることのご説明」
「聴力測定と、その説明を通して、ご本人が現状を理解するお手伝い」
「ご家族とご本人の間で、どんな行き違いがあるかの仲介役と話し相手」
「難聴によって、一般的にどんな場面で困りやすいかのご説明」
「難聴が進むと、将来に起こることの予想と紹介」
「(ご本人が興味を持って、体験を希望した場合のみ)補聴器の試聴」などです。
将来、今よりお耳が遠くなった時に備えていただき「あの時、話を聞いておいてよかった」「少し補聴器を体験しておいて良かった」と思っていただけるようなサービスの提供を行っていきます。
2006年から補聴器の仕事を始めました。もっとも確実に、よく聞こえる方法をご提供することが、私のミッションです。皆様の耳に合った補聴器をお届けするため、毎日毎日、聴覚医学の論文を読み、デンマークやドイツの研究機関と連絡を取り、時には欧州へ勉強に行き、海外から研究者を招き勉強会を開催し、国内の社会人大学院へ通い修士号まで取ってしまいました。本Webページでは、補聴器と難聴について、確かな情報や最新の情報をお届けしていきます。ご相談の方は、お気軽にご連絡ください。
保有資格:認定補聴器技能者、医療機器販売管理者
★ Twitter はじめました。耳の話を真面目に書いてます! : @mimi_otsuka