補聴器は両耳か片耳か?それぞれのメリット・デメリット
補聴器を両耳に使う場合と片耳だけに使う場合、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。結論を先にご紹介すると、左右の耳の聴力が同じくらいで、ご予算が20万円以上の方は、両耳に使うことがおすすめです。これは高級な補聴器を片耳に使うよりも、お金を半分に分けて両耳に使った方がメリットが多いためです。
ただし取り扱いやお手入れの手間は、2倍(両耳分)になります。
左右の耳の聴力に差がある場合や、手先の器用さに不安な方の場合は、個別に判断する必要があります。
補聴器を両耳で使うメリット(片耳のデメリット)
左右の聴力が同じくらいの難聴であれば、補聴器を片耳だけで使うより、両耳で使った方が満足度が高いというデータがあります。とくに複数人での会話では、大きな差があります。
補聴器を両耳で使うメリット・デメリットをきちんと理解した上で、自分で選べれば、より納得して使うことができます。まずは補聴器を両耳で使うメリットをご紹介します。
①両耳だと音の方向が分かりやすくなる。
人間は、左右の耳が同じくらいに聞こえる状態だと、音の方向が分かるようになっています。例えば右方向に音の発生源があれば、通常、右耳には大きく音が聞こえます。音の発生源から遠い左耳には小さく聞こえます。
こうして人は、左右の耳に入ってくる音の微妙な差で、無意識に音の方向を判断しているのです。
補聴器を片耳だけに着けた場合、この機能が正常に働かなくなり、音の方向は分からなくなります。補聴器を着けた方の耳は、常に音が大きく聞こえるためです。
例えば、左耳だけに補聴器を使った場合、右方向から話しかけられても、左から入ってくる音の方が大きいので、左から話しかけられているように誤解してしまいます。
ほかにも、道路を歩いているとき、右後ろから自転車が近づいてきてベルを鳴らした場合、左後ろからベルの音が聞こえてきたと思うので右によけてしまい、ぶつかってしまう可能性があります。
音の方向について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
人間が音の方向を理解する仕組みと、音の方向が分かる補聴器
②騒がしい場所で会話を聞き取るときには両耳が有効
耳のいい人は、うるさい場所で会話するとき、無意識に左右の耳を使い分けています。騒音の発生源が右側にあれば、左の耳で言葉を聞き、この逆に騒音が左側にあれば、右の耳で言葉を聞いています。
騒音と人の声、それぞれの角度によって左右の耳を使い分けて言葉を理解しています。
たとえば右耳だけに補聴器を使っている場合、右方向から騒音が聞こえてきたら、人の言葉も聞こえにくくなってしまいます。とくに屋外で会話するときは、交通騒音や風の音など色々な音が入ってくるため、両耳と片耳では聞こえ方の違いが大きくなります。
下の図は、右耳だけ補聴器を使用した場合です。右側から騒音が発生していると、補聴器には騒音と話し手の声が混ざってしまい、かき消されてしまいます。左側は、補聴器を着けていないのでよく聞こえません。
両耳に補聴器を使った状態は、下の図のようになります。
右方向から騒音が入ってきて、右耳には話し手の声が聞こえなくても、左側の補聴器に声が入ってくるので会話に困りません。
③いろいろな方向から話しかけられても聞き取りやすい。
補聴器を使っている人が、誰かと会話する場面で「どんな方向から話しかけられているか?」を調査したデータがあります。
一番、言葉が分かりやすいのは、もちろんお互いに顔を見て話しているときです。真正面という分かりやすい方向から話してもらえる場面は、日常の生活の中で全体の68%でした。この逆に顔を向けていない方向から話される場面(つまり言葉が少し分かりにくくなる場面)は、32%でした。これはアメリカでの調査データなので、遠慮がちな日本人は、もっと顔を見ずに、分かりにくく話している可能性があります。
補聴器を両耳に使った場合、この32%の場面で聞き取りが改善する可能性が出てきます。
まず補聴器を片耳だけに使った場合のデメリットをご紹介します。仮に右耳だけに補聴器を使っている場合、左方向から話しかけられたとき、声が聞こえにくくなります。
左方向からの声が全く聞こえないわけではありません。しかし左方向の声が右耳の補聴器に届くまでに、相当小さくなります。これは自分の頭が障害物になって、音を遮ってしまうためです。
この逆に、両耳に補聴器を使った場合は、下の図のようになります。
日常生活の中では色々な場面で色々な方向から話しかけられます。補聴器を片耳だけに使っていても、補聴器を着けた耳を相手に向ければ、もちろんよく聞こえます。しかし、話しかけられたとき、常に補聴器を着けている耳を相手の方向に向けることは簡単ではありません。
補聴器を両耳に使うと、右から話しかけられても、左から話しかけられても、相手の言葉を自然に聞くことが出来ます。
④上記の①から③の結果から、両耳の方がコスパは良い。
両耳に補聴器を着ける最大のメリットは、補聴器にかけるお金に対して、聞こえの効果が大きくなることです。
仮にご予算が30万円だったとすると、1台30万円の高級な補聴器を片耳に使うよりも、1台15万円の補聴器を両耳に使った方が、総合的によく聞こえます。ご予算が40万円でも50万円でも同じことが言えます。
たとえば最高級50万円の補聴器を1台だけ購入して、補聴器を片耳に使ったとしても、ここまでにご紹介した「両耳に補聴器を使った場合の効果」は、まったくありません。
同じ予算であれば、よりよく聞こえる方が満足していただけると思います。補聴器は両耳に使った方が、コストパフォーマンスが良いのです。
⑤補聴器が一つ故障しても、片耳は聞こえる
補聴器は毎日朝から晩まで使っていれば、時には故障してしまうこともあります。しかし、両耳に補聴器を使っている人の場合、両方の補聴器が同時に故障することはまずありません。両耳で補聴器を使っていれば、急に故障したときにも、最低限、片耳で聞こえる状態を保てます。
また故障以外でも外出先で思いがけず片方の電池がなくなってしまった場合も、しばらくは片方の補聴器で聞き取ることが出来ます。補聴器を両耳で使っている人の、両耳の電池が同時になくなることは、ほとんどありません。
補聴器を片耳で使うメリット=両耳のデメリット
ここまで補聴器を両耳に使うメリットをご紹介してきましたが、ここからは補聴器を両耳で使うデメリットをご紹介します。
⑥補聴器を両耳に使うと管理の手間が2倍になる
補聴器は、小さな道具です。毎日、耳に着けて夜には外し、スイッチを入れたり切ったりする必要があります。耳の穴に入れるため、耳垢が着いたらそれをブラシなどで掃除する必要もあります。
補聴器を両耳に使うと、こういった管理の手間は増えます。
特に手先の器用さに自信がない人にとっては、負担になるかも知れません。利き手であれば耳に着ける動作がスムーズにできても、利き手ではない方の手では補聴器を耳に着ける動作が難しい人もいます。
手先の器用さは左右の手で異なりますが、実は耳の穴の形も左右で異なります。耳の穴の形によって、取り扱いが簡単になったり、難しくなったりする場合もあります。
音や聞こえ方に限れば、たしかに補聴器は両耳の方が良いのですが、管理や取り扱いの手間も、しっかり検討していただくのが良いでしょう。
⑦補聴器の購入、電池、修理のコストが2倍になる。
先に「補聴器は両耳で使った方が、コストパフォーマンスが高くなる」とご紹介しました。それはご予算が合計25万円以上の場合です。
補聴器専門店で流通している補聴器の多くは、お値打ちなものでも片耳10万円ほどになります。
ご予算が20万円以下の場合、両耳にすべきか片耳にすべきかは判断が難しくなります。ご予算が10万円以下であれば、多くの場合は片耳のみに補聴器を使った方が良いでしょう。
また補聴器を両耳に使うと、必要な電池代も増えます。
補聴器には電池式と充電式がありますが、電池式の補聴器を使っている場合は、単純に電池代が2倍になります。
また補聴器を毎日使っていると、いずれは故障します。補聴器の耐用年数は5年とされています。その期間中、一回程度は故障したり、故障しなくても予防的なメンテナンスが必要です。一回5000円から、もしも高額な部品が故障すると4万円程度になることもあります。両耳に補聴器を使っていると、この修理代も2倍になります。
⑧左右の耳の聴力に大きな差がある場合、片耳の方が良いことがある。
先に①から④までに説明した両耳のメリットが当てはまらないことがあります。
それは左右の耳の聴力に大きな差がある方です。その場合は、補聴器を片耳だけに使った方が良い場合があります。
下記のような方は、補聴器を片耳だけ使うことを選んでいます。
・良く聞こえる方の耳の聴力がほぼ健聴の方。
・よく聞こえない方の耳の聴力が、大きく低下しており補聴器の効果が見込めない方。
・音を聞く力である聴力に問題が無くても、脳梗塞の後遺症や聴覚神経の腫瘍などによって、どちらかの耳では言葉を聞き取ることが出来ない状態の方。
・両方の耳に補聴器を着けた時の耳を塞いだ感覚に強いストレスを感じる方。
・電話を使う時は、補聴器がないほうが楽だと感じる方。
・片耳で必要十分な効果があると満足している方。
まとめ
基本的には、補聴器は両耳に使った方がよく聞こえるようになります。コストパフォーマンスから見ても、十分なメリットが得られるでしょう。
例外として、左右の耳の聴力に大きな差がある方、ご予算が20万円以下の方、左右どちらかの指先の器用さに心配がある方などは、片耳だけに補聴器を使った方が良い場合もあります。その場合は、補聴器専門店で専門スタッフにご相談ください。一人一人のご要望・聴力・指先の器用さなどに合わせて、最善の提案をいたします。
2006年から補聴器の仕事を始めました。もっとも確実に、よく聞こえる方法をご提供することが、私のミッションです。皆様の耳に合った補聴器をお届けするため、毎日毎日、聴覚医学の論文を読み、デンマークやドイツの研究機関と連絡を取り、時には欧州へ勉強に行き、海外から研究者を招き勉強会を開催し、国内の社会人大学院へ通い修士号まで取ってしまいました。本Webページでは、補聴器と難聴について、確かな情報や最新の情報をお届けしていきます。ご相談の方は、お気軽にご連絡ください。
保有資格:認定補聴器技能者、医療機器販売管理者
★ Twitter はじめました。耳の話を真面目に書いてます! : @mimi_otsuka