「よく聞こえない補聴器」の原因と改善:耳せんを調整した事例
補聴器は調整によって聞こえ方が大きく変わります。補聴器が聞こえづらい場合、調整が適切でないことがあります。本記事では、よく聞こえなかったお客様に、正しい耳せんを選び直して聞こえを改善した事例を紹介します。
当社は補聴器専門店です。他店で補聴器を買ったお客様から「よく聞こえない補聴器」の相談も多数いただいており、有償で調整サービスを提供しております。本記事では、補聴器を買い替えずに、調整で聞こえが改善した事例をご紹介します。
※以下のケース紹介は実際の事例を基にしていますが、個人の特定を防ぐために、詳細や背景情報、聴力測定の結果等は変更を加えています。
「音が小さい」「言葉がハッキリ聞こえない」「補聴器を付けても効果がない」
上の写真は、お持ち込みいただいた補聴器と同じものです。ご持参いただいたときのお客様の評価は「音が小さい」「言葉がはっきり聞こえない」「補聴器を付けても効果がない」というものでした。
高額な補聴器だったこともあり「なんとか、この補聴器を聞こえるように出来ないでしょうか?」と調整の依頼をいただきました。
「よく聞こえない補聴器」をお持ち込みいただいた場合の対応
「よく聞こえない補聴器」をお持ち込みいただいた際の対応は、およそ下記のような流れになります。
1.ご相談・カウンセリング、ご要望をうかがいます。
2.ご持参いただいた補聴器に故障や初期不良がないかの確認・点検。
3.聴力測定。
4.再調整だけで聞こえが改善できるかの予測。
5.耳せんの見直し、音の再調整と測定。
6.言葉の聞こえ方をテストして効果を確認。
7.お客様に主観的なご評価をいただく。
8.ご満足いただけた場合はお支払い。
今回のご要望は「5人程度のお友達との会話が楽しめるようになりたい」というものでした。また、ご持参いただいた補聴器は正常に動作していました。
聴力測定と器種の適合
現状のお困りごとや気になっていることを伺った上で「よく聞こえない補聴器」の原因を探るため、聴力を測定しました。多くの場合、補聴器がよく聞こえない原因は、耳と補聴器が合っていないことです。問題の原因を見つけるには、耳の状態を正確に知ることが必要です。
聴力測定の結果
上の表はお客様の聞こえの状態を表すオージオグラムというものです。どのくらいの音量だと聞こえるかを、低い音から高い音まで測定します。
この方は、低い音から高い音までおよそ同じ程度聞こえました。難聴の程度としては、中等度になります。75歳以上の高齢者であれば、珍しくない聴力です。
- 真ん中の線から左側は低い音の聞こえ
- 真ん中の線から右側は高い音の聞こえ
- 〇や×が下にあるほど、大きな音でないと聞こえなかったという意味です。
- オージオグラムの読み方はこちら
- https://miru-kiku.jp/audiogram/
言葉の聞き取り(語音明瞭度)を確認
多くの人にとって、補聴器は言葉が聞き取れなければ意味がありません。そこで、補聴器を着けていない状態だけではなく、補聴器を着けた状態でも、どれくらい言葉を聞き取れるかを調べました。
上のグラフは言葉の聞き取りの力を調べる語音明瞭度測定の結果です。語音明瞭度測定は小さな音を聞き取る測定ではありません。「あ」や「い」など、スピーカーから聞こえてくる声が聞き分けられるかを調べます。
縦の軸は正答率(パーセント)を表しています。△の印が上にあるほど正答率が高いということです。つまり言葉を良く聞き取れたことを示します。
横の軸はスピーカーの音量を示しています。おおむね60dB前後が、普通の声の大きさです。50dB前後が小声と同じくらいの大きさで、70dBは大声で話しかけられた時と同じくらいの大きさになります。
この方が持参された補聴器は、普通の声の大きさで会話した際の正答率が60%でした。逆に言えば40%を聞き間違える状態です。
「よく聞こえない補聴器」を改めて確認
聞こえの測定を行った後は、改めて補聴器自体の確認です。
この補聴器を見て、まず問題に感じたこと。それは耳せんの種類です。
よく聞こえない原因は、耳せんの選び方
実は補聴器用の耳せんには非常に多くの種類があり、聴力に応じて適切な耳せんを選ぶ必要があります。耳せん選びは、サイズの大小だけではなく、形状すべてがとても大切です。
ご持参いただいた補聴器の先端には、一般に”オープン耳せん”と呼ばれるタイプの耳せんが取り付けてありました。このオープン耳せん、世界中で広く使われていますが、実は軽度の難聴の中でも、極一部の方にしか適応しません。
人間は耳の穴の奥にある鼓膜に音が届いたときに、初めて聞くことが出来ます。しかし、オープン耳せんは、すき間が大きく、音を増幅して鼓膜に届けようとしても、増幅した音が外に漏れてしまいます。
対策と結果:耳せんの変更で、言葉の聞き取り正答率が90%まで改善!
このオープン耳せんを別の耳せんに変更しました。
そのうえで改めて補聴器の音を調整し、再び補聴器をつけて、語音明瞭度を調べてみました。この語音明瞭度の測定は、いわば補聴器の効果の確認ですら、調整の成否の確認のため、複数回行うことがあります。下のグラフは、補聴器を調整する前後の測定結果を比べたものです。
普通の声(60dB)の聞き取りの正答率は、60% → 90%と大幅に改善しました。
小さな声(50dB)の聞き取りも、50% → 85%と成績が改善しています。
調整後の補聴器なら少し小さな声や3メートルほどの距離で話しかけられても、85%聞き取ることができました。。最終的に今回のケースでは、調整にご満足していただくことができたため、調整代金と耳せんの交換費用を頂戴しました。お客さまには「同じ補聴器なのに(調整で)こんなに変わると思いませんでした!」とお喜びいただくことができました。
オープン耳せんが合う人、しっかりふさぐ耳せんが合わない人
- 聴力によってはオープン耳せんの方が適しているケースがあります。比較的に低い音(低い周波数)の聞こえは保たれているけれど、高い音(高い周波数)だけが聞き取りづらくなっている方です。
- こういった聴力で、耳の穴をふさぐ耳せんを使うと、自分の声がこもってしまい、補聴器をつけていることが苦痛になってしまう可能性があります。こういった方はオープン耳せんを選ぶと、補聴器を快適に使用できます。
耳せんにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特徴があります。また、それぞれに良さがあり、お耳の状態に対する相性もあります。一概にどの耳せんが良い・悪いということはでありません。聞こえの程度やこもり感の個人差に応じて、適切な耳せんは異なります。お耳にあった適切な耳せんを選ぶには、ぜひ補聴器の専門家にご相談ください。
「よく聞こえない補聴器」は、補聴器の専門家へ相談して下さい
今お使いの補聴器が聞こえづらい場合、調整で言葉の聞き取りが改善する可能性があります。買い替えのまえに、専門家に相談して調整で改善できないかご相談ください。
当社では他店でご購入されたお客様の再調整も承っています。ご相談だけの方も歓迎です。補聴器の聞こえにお悩みの方はぜひご連絡ください。
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
たくさんの難聴の方々に、もっとも確実によく聞こえる方法をご提供することが私たちのミッションです。
監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
なお古いページについては執筆当時の聴覚医学や補聴工学を参考に記載しております。科学の進歩によって、現在は当てはまらない情報になっている可能性があります。
※耳の病気・ケガ・治療、言語獲得期の小児難聴や人工内耳については、まず医療機関へご相談下さい。