難聴の程度、聴力別のお困りごとの例
聴力が低下すると難聴になります。難聴はその程度によって軽度から重度まで分類されます。難聴の程度と、聴力レベル別のお困りごとの例を紹介します。
難聴の程度 / 平均聴力レベル
人の聞こえ方をシンプルに表す言葉としては「平均聴力レベル」「難聴の程度」の2種類があります。
平均聴力レベル:周波数別に聴力を検査して、ギリギリ聞こえる音圧を調べ、それらを平均した数値。
難聴の程度:人の難聴の程度がもっと簡単に分かるように、平均聴力レベルをもとに難聴を分類したもの。
平均聴力レベルの算出方法
病院や補聴器店で聴力検査を受けると、125Hzから8000Hzまで1オクターブごとにぎりぎり聞こえる音圧を調べてくれます。その結果、周波数ごとに異なる聴力(聴覚閾値)が分かります。
周波数ごとの聴覚閾値を調べたうえで、それらの数字を元に特殊な計算で算出したものが平均聴力レベルです。
平均聴力レベルの算出では、言葉の聞き取りへの影響を考慮して、言葉を聞き取るために重要な周波数だけが採用されています。
この算出方法については複数の計算方法があり、日本聴覚医学会では下記の計算式が紹介されています1)。
①2分法 (1000 Hz + 2000 Hz) /2
②3分法 A (500 Hz + 1000 Hz + 2000 Hz)/ 3
③3分法 B (1000 Hz + 2000 Hz + 4000 Hz / 3
④4分法 A (500 Hz +1000 Hz x 2 + 2000 Hz) / 4
⑤4分法 B (500 Hz +1000 Hz +2000 Hz +4000 Hz)/4
⑥6分法 (500 Hz +1000 Hz x 2+2000 Hz x 2 + 4000 Hz )/6
日本では古くから④4分法Aが広く使われてきましたが、国際的には⑤4分法Bの方が普及しています。近年、日本でも⑤4分法Bが徐々に広がりつつあります。
- ご自分の聴力(オージオグラム)の読み方にご興味ある方は、こちらの記事をご覧ください。
- 聴力検査の結果(オージオグラム)の見方
難聴の程度と平均聴力レベルの関係
難聴の程度の分類については、WHOが提唱した分類、日本聴覚医学会が提唱した分類、身体障害者福祉法による分類、アメリカ聴覚医学会(ASHA)の分類など、複数の分類法があります。
本記事ではWHO基準による難聴の程度(グレード)を参考に、グレードごとのよくある困りごとを紹介します。
難聴の程度 | 平均聴力レベル(dB) |
---|---|
正常聴力 | 20dB未満 |
軽度難聴 | 20dBから 35dB未満 |
中等度難聴 | 35dBから 50dB未満 |
中等度から高度の難聴 | 50dBから 65dB未満 |
高度難聴 | 65dBから 80dB未満 |
重度難聴 | 80dBから 95dB未満 |
失聴または聾 | 95dB以上 |
一側性難聴 | 良い方の耳が20 dB未満、悪い方の耳が35 dB以上 |
※難聴の程度と平均聴力に関する注意事項
この分類と程度は成人の難聴を対象に、難聴者の傾向を知ることを目的として開発されています。一人一人が感じた実際の困りごとが、その人にとって重要です。個人の耳の状態については、専門医による診察・診断を受けて下さい。
本資料を用いる際には以下の点に注意が必要です。
聴力検査の記述(例:純音聴力検査の結果および平均聴力)は個人の聴覚閾値の要約を表していますが、補聴器装用の唯一の決定要因として使用することは推奨されていません。また純音聴力検査は、静かな場所でヘッドホンを使用して測定されることから、一人一人の騒がしい環境での会話の困難さを直接に判断できるものではありません。一側性難聴は、聴力に関係なく、困りごとの個人差のバラツキが特に大きくなります。
難聴の程度による実際の困りごとの状態
難聴の程度が同じでも、周りの音環境によって困りごとは変わってきます。
次の表ではWHOの基準を参考に、難聴による困りごとを難聴の程度と周りのうるささに分けてご紹介します。
表中の騒がしい環境とは、たとえば昼時の満席のファミレス、交通騒音がある環境での路上での会話、走行中の車の中での会話など、日常的によくある騒音レベルをイメージしてください。
正常聴力 |
---|
静かな環境:音を聞くことに問題ない。 騒がしい環境:聞き取りの問題はほとんどない |
軽度聴力 |
静かな環境:近くの普通の会話は問題ないが、小さい声や離れた場所での会話は聞き取りにくいことがある。一般的な加齢性難聴の場合は幼い子供の声、ぼそぼそした声、ささやき声など一部の声に聞き取りづらさを自覚することがある。 騒がしい環境:会話の聞き取りが難しい場合がある。電話での会話で聞き取りづらいことがある。 補聴器を付けた場合:会議などでの聞き取り改善目的では、補聴器が役立つことがある。 |
中等度聴力 |
静かな環境:正面からの大きめの会話は聞き取ることができるが、自然な会話の聞き取りが難しい場合がある。特に複数人での会話は難しいことが多い。家族からは「話し声が大きすぎる」と言われることがある。音楽やテレビを聴くとき、耳のいい人より大きな音量を好むようになる。 騒がしい環境:会話を聞き取ろうとすると集中しなければならず、人と会って帰ってきた後にとても疲れているように感じられる。騒がしい環境では一対一でも聞き返すことが増え、会話への参加が難しい場合がある。人の言葉が聞き取れないときに、うなずいたり微笑んだりしてしまうことが増える。 補聴器をつけた場合:様々な場面で補聴器が役に立ち、効果を感じられるケースが多い。 |
中等度から高度の聴力 |
静かな環境:通常の会話では聞き逃しが多く、大きな声で話されないと聞き取ることができない。人が話しかけているのを誤解してしまい、コミュニケーションの行き違いが起こる場合がある。電話での会話は音量を最大にしても聞き取りづらいことがある。家族や友人が名前を呼んでも気付かないことがある。 騒がしい環境:大き目の声であっても会話の聞き取りや会話への参加が難しい。自転車や自動車が接近しても音で気付くことが困難になる。 補聴器をつけた場合:補聴器があれば日常生活でのコミュニケーションに助けとなることが多い。 |
高度聴力 |
静かな環境:会話の聞き取りが非常に難しく、話者には大きな声を出してもらう必要がある。声を大きくしても聞き取りが難しい場合がある。静かな場所でも自転車や自動車の接近に音で気付くことが困難になる。 騒がしい環境:声を聞くこと自体が非常に難しく、会話に参加することが非常に困難。 補聴器をつけた場合:補聴器を用いれば会話が聞こえるケースが多い。しかし聞こえても聞き取りに限界があり、口元を見たり、視覚的情報が必要となる。話しかけるときには”話す前に相手の注意を引き、こちらを見ていることを確認する” “ゆっくり、はっきりと話す” “一度目で聞き取れなかったことを繰り返す”などの支援が必要になるケースがある。 |
重度聴力 |
静かな環境:声を大きくしても聞き取ることが非常に困難。自分自身の声は聞こえる。 騒がしい環境:声を聞くことがほとんどできない。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。補聴器を使用しても聞き取れないことが増えてくる。顔が見えない距離での会話、距離が近くても口元が隠れていたり、話し手が顔を向けてくれないと、会話に不自由さを感じる。 |
失聴または聾 |
静かな環境:音やほとんどの生活音が聞こえない。近い距離の低周波数の強大音は聞こえることがある。 騒がしい環境:音やほとんどの生活音を聞くことができない。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。補聴器を使っても聴覚のみで会話することは困難。音声で会話を行うためには補聴器だけでなく唇の動きを読み取るなど他の能力を併用することが多い。 |
一側性難聴 |
静かな環境:悪い方の耳に近いところで音が聞こえない限り問題はないが、音の方向感がわかりにくい場合がある 騒がしい環境:声を聞くことが難しく、会話に参加することが難しい場合がある。音の方向感がわかりにくいことがある。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。一側性難聴専用の補聴機器として、CROS/BiCROSシステムがある。これは悪い方の耳にマイクを装着し、良い方の耳に補聴器を装着することで、よく聴こえない方向の音や声を聞き取ることができる。 |
正常聴力 |
---|
静かな環境:音を聞くことに問題ない。 騒がしい環境:聞き取りの問題はほとんどない |
軽度聴力 |
静かな環境:近くの普通の会話は問題ないが、小さい声や離れた場所での会話は聞き取りにくいことがある。一般的な加齢性難聴の場合は幼い子供の声、ぼそぼそした声、ささやき声など一部の声に聞き取りづらさを自覚することがある。 騒がしい環境:会話の聞き取りが難しい場合がある。電話での会話で聞き取りづらいことがある。 補聴器を付けた場合:会議などでの聞き取り改善目的では、補聴器が役立つことがある。 |
中等度聴力 |
静かな環境:正面からの大きめの会話は聞き取ることができるが、自然な会話の聞き取りが難しい場合がある。特に複数人での会話は難しいことが多い。家族からは「話し声が大きすぎる」と言われることがある。音楽やテレビを聴くとき、耳のいい人より大きな音量を好むようになる。 騒がしい環境:会話を聞き取ろうとすると集中しなければならず、人と会って帰ってきた後にとても疲れているように感じられる。騒がしい環境では一対一でも聞き返すことが増え、会話への参加が難しい場合がある。人の言葉が聞き取れないときに、うなずいたり微笑んだりしてしまうことが増える。 補聴器をつけた場合:様々な場面で補聴器が役に立ち、効果を感じられるケースが多い。 |
中等度から高度の聴力 |
静かな環境:通常の会話では聞き逃しが多く、大きな声で話されないと聞き取ることができない。人が話しかけているのを誤解してしまい、コミュニケーションの行き違いが起こる場合がある。電話での会話は音量を最大にしても聞き取りづらいことがある。家族や友人が名前を呼んでも気付かないことがある。 騒がしい環境:大き目の声であっても会話の聞き取りや会話への参加が難しい。自転車や自動車が接近しても音で気付くことが困難になる。 補聴器をつけた場合:補聴器があれば日常生活でのコミュニケーションに助けとなることが多い。 |
高度聴力 |
静かな環境:会話の聞き取りが非常に難しく、話者には大きな声を出してもらう必要がある。声を大きくしても聞き取りが難しい場合がある。静かな場所でも自転車や自動車の接近に音で気付くことが困難になる。 騒がしい環境:声を聞くこと自体が非常に難しく、会話に参加することが非常に困難。 補聴器をつけた場合:補聴器を用いれば会話が聞こえるケースが多い。しかし聞こえても聞き取りに限界があり、口元を見たり、視覚的情報が必要となる。話しかけるときには”話す前に相手の注意を引き、こちらを見ていることを確認する” “ゆっくり、はっきりと話す” “一度目で聞き取れなかったことを繰り返す”などの支援が必要になるケースがある。 |
重度聴力 |
静かな環境:声を大きくしても聞き取ることが非常に困難。自分自身の声は聞こえる。 騒がしい環境:声を聞くことがほとんどできない。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。補聴器を使用しても聞き取れないことが増えてくる。顔が見えない距離での会話、距離が近くても口元が隠れていたり、話し手が顔を向けてくれないと、会話に不自由さを感じる。 |
失聴または聾 |
静かな環境:音やほとんどの生活音が聞こえない。近い距離の低周波数の強大音は聞こえることがある。 騒がしい環境:音やほとんどの生活音を聞くことができない。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。補聴器を使っても聴覚のみで会話することは困難。音声で会話を行うためには補聴器だけでなく唇の動きを読み取るなど他の能力を併用することが多い。 |
一側性難聴 |
静かな環境:悪い方の耳に近いところで音が聞こえない限り問題はないが、音の方向感がわかりにくい場合がある 騒がしい環境:声を聞くことが難しく、会話に参加することが難しい場合がある。音の方向感がわかりにくいことがある。 補聴器をつけた場合:効果については個人差が大きい。一側性難聴専用の補聴機器として、CROS/BiCROSシステムがある。これは悪い方の耳にマイクを装着し、良い方の耳に補聴器を装着することで、よく聴こえない方向の音や声を聞き取ることができる。 |
自分の難聴が気になったら?
ひとことで難聴といっても「難聴の程度」によって困りごとはさまざまです。それぞれ対策が異なり、補聴器を使ったとしても、その効果の表れ方が変わってきます。
自分の難聴が気になり、自分の耳の状態を知って治療してもらう場合には耳鼻科を受診しましょう。
補聴器を検討中なら補聴器相談医がおすすめです。
補聴器相談医名簿|一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/certification/index.php?content_id=39
難聴の程度によっては補聴器の活用が有効です。特に加齢による難聴は、早ければ早いほど、補聴器を装用することで聴こえの改善が期待できます。補聴器のことが気になったら、補聴器店にご相談ください。
引用文献・参考文献
引用文献
1) 内藤泰, 川瀬哲明, 小林一女,鈴木光也, 曾根三千彦, 原田竜彦, 米本清:難聴対策委員会報告 – 難聴 (聴覚障害) の程度分類について -。AUDIOLOGY JAPAN 57(4): 258-263,2014
参考文献
2)Sensory functions, disability and rehabilitation (sdr). (2021, March 3). WORLD REPORT ON HEARING (World Health Organization, Ed.). World Health Organization (WHO). Retrieved September 27, 2024, from https://www.who.int/publications/i/item/9789240020481
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
たくさんの難聴の方々に、もっとも確実によく聞こえる方法をご提供することが私たちのミッションです。
監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
なお古いページについては執筆当時の聴覚医学や補聴工学を参考に記載しております。科学の進歩によって、現在は当てはまらない情報になっている可能性があります。
※耳の病気・ケガ・治療、言語獲得期の小児難聴や人工内耳については、まず医療機関へご相談下さい。