補聴器を買うべき?買わないべき?補聴器を始めるタイミングについて
補聴器を始めた方がいいかどうかは、ご本人が「困っているかどうか」です。
補聴器を始めるタイミングで大事なことは「本当に困っている」かどうかです。もっと言えば「興味を持っているか」によります。
というのも、ご本人の難聴の自覚と、困っている自覚は別のことだからです。
この記事では生活環境と困りごとに合わせた補聴器を始めるタイミングについてご紹介します。
難聴の自覚と、困っている自覚は別のこと。
私たち、プロショップ大塚へご相談に来るお客様には2つのパターンがあります。ご本人の意思で来店する場合と、ご家族の強い勧めで来店する場合です。
ご自分の意志で相談に来る方は軽度難聴が多く、また補聴器がすぐに活躍する。
ご本人が自分の意志で来店される方の多くは、具体的な困りごとを持っていらっしゃいます。
例えば
「仕事で上司やお客様の言葉が聞き取れない」
「ダンスや音楽の習い事で先生の話がハッキリしない」
「お芝居を観に行ったときに、ステージから遠くてセリフが分かりにくい」
「病院の診察で、医師の声がハッキリ聞き取れない」
などです。
またご家族に連れてこられる方と比べると、平均60歳代と若く、軽い難聴である場合が多いのです。みなさん「まだ補聴器は早いかも知れないけど、ちょっと困るから話を聞いてみたい」と言って、ご相談にいらっしゃいます。
こういったお客様の場合、問題が明確ですし、聞こえの状態に興味を持っていただいています。もし、私たちにご相談いただければ問題解決は簡単な場合が多いです。
自分で補聴器が必要と感じた方は難聴が軽くても、困りごとが具体的。補聴器がすぐに活躍します。
家族に連れてこられるお客様は、難聴を自覚していても、困っていない。
ご本人が補聴器に興味を持っていないのに、ご家族の勧めでご来店される方も多数いらっしゃいます。この場合、すでに難聴が進んでいる傾向にあります。
もちろんご本人は難聴を自覚されています。しかし困っている自覚を持っているかというと、そうとは限りません。
ご家族や周りの方から見れば、テレビの音量が大きかったり、電話での会話が難しかったり、同じ話を大きな声で繰り返したりなど、困っているように見えます。
しかし、ご本人に困っている自覚がない場合、例えば、こういったことをおっしゃいます。
「テレビの音量は、大きくすれば聞こえる」
「テレビのセリフは、字幕で読むから大丈夫」
「電話はしないから別にいい。家族にすぐ代わってもらう。だまされなくてちょうどいい」
「あなた(ご家族の皆さん)が、ハッキリ話さないのが悪い」
「年を取ったら、聞こえなくなるのは当然だから、仕方ない」
つまり難聴の自覚はあっても、困っている自覚があまりありません。
ご家族の皆さんは「ぜひ補聴器を使ってもらいたい」と考えているのですが、これについては後ほどお伝えします。
難聴を自覚していても、実はそれほど困っていないと思っている人は多数いらっしゃいます。
そのような方のご家族が「ぜひ補聴器を使ってもらいたい」と考えていても、それはまた別の話
まず、ここまででお伝えしたい大切なことは
・補聴器を始めるタイミングと、聴力はほとんど関係がない。
・補聴器を考える第一のタイミングは、ご本人が少しでも「困った」を自覚したとき。
この二つです。
世界中の専門家が「聴力検査より、本人のモチベーションや体験することが大切」と。
難聴を自覚した方の多くは、耳鼻科を受診します。また直接、私たちのような補聴器専門店へ相談する方もいます。相談された方の多くから「私、そろそろ補聴器を使った方がいいんでしょうか?」という質問をいただきます。
この質問には、世界共通で答えが出ています。
「補聴器ハンドブック」という、世界中で出版されている補聴器の専門書があります。
この本の中では
「補聴器装用のメリットがある人とそうでない人を区別するために、聴力レベルから多くの試みがなされてきたが、これまでことごとく失敗している。(中略)聴力よりも他の要因が大きい(中略)おそらく最も大きい要因は、これから補聴器を入手しようとする(ご本人の)姿勢とモチベーション」
引用: 補聴器ハンドブック 原著第2版 | Harvey Dillon, 中川 雅文, |本 | 通販 | Amazon
つまり聴力検査よりも、ご本人の希望やモチベーション、やる気が大切ということです。
聴力検査の結果が良かろうが悪かろうが、補聴器が使ったほうがいいかどうかは、ご本人の希望やモチベーション、やる気次第です。
また日本で、最新の医師向けの補聴器専門書「ゼロから始める補聴器診療」は、次のような記述があります。
「当科では補聴器の適応は、以下の3つを満たした場合と考えています。
①純音聴力検査にて、片耳or両耳に軽度以上の難聴があること。
②難聴により生活に不自由があること。
③その不自由を改善したい意思があること。
(中略)聴力レベルだけでは適応を決めることはできません。
(中略)不自由があり、改善の意思があるなら試す機会を!」p11-p12
引用:ゼロから始める補聴器診療 | 新田 清一, 鈴木 大介, 小川 郁 |本 | 通販 | Amazon
一般の方向けの書籍でも同じように、補聴器は、ご本人の困りごとが大切と言われています。難聴と補聴器を専門とする医師が、一般の方向けに補聴器について解説した「よくわかる補聴器選び」の中の一説です。
「日常生活に不都合が生じたら補聴器を使い始めるタイミング(中略)聞こえないと感じたら(補聴器の)適応です」P54
引用:よくわかる補聴器選び2018年版 (ヤエスメディアムック539) | 関谷芳正 |本 | 通販 | Amazon
最初の質問「そろそろ補聴器を使った方がいいんでしょうか?」に戻ります。
この答えは、日本を含む世界中の専門家の間でも、もう答えが出ています。
「何かしらの不自由や不都合を感じることがあって、それを解決したいと思うなら、まずは補聴器を体験して、試してみるべき」というものです。もちろん「補聴器を購入するべき」という意味では、決してありません。ご本人が体験して、判断した方がいいという意味です。
御本人が何かしらの不自由や不都合を感じることがあって、それを解決したいと思うなら、補聴器を体験して判断するのが良いタイミングです。
逆に、周りに言われたからとか、検査結果が悪かったからと言って、困っていないなら補聴器の購入はもう少し先でも良いかもしれません。
(ただ、周りに言われるという時は、かなり難聴が進んでいる可能性があります。補聴器を体験することで、実は困っていたことを実感できることもあります)
当店では、ここまで強くは言いませんが、電話などでご相談いただいた際には「もし補聴器を試すことにためらいがあったとしも、専門家の話を一度聞いて、難聴ってどういうことなのか、補聴器はどういうものなのか、今後のためにも情報を仕入れてみてはいかがですか?」とおすすめしています。
ご本人に困っている自覚がない場合、家族に出来ることは?
ご本人に困っている自覚がない場合「補聴器を着けることを強要すること」ではありません。
●難聴者向けに特別な音質を出すスピーカーをテレビに取り付ける。
●ご家族が介護を受ける状態なら、話を聞く人が補聴器を使うのではなく、話しかける人である介護者用のスピーカーをご家族が使う。
●補聴器を使ってよく聞こえるようになったら、どんなに素晴らしい体験を家族で一緒に共有できるかを話し合う。
例、大きな声を出さなくていい状態になれば、近所の喫茶店で一緒にデザートを食べに行けるね。旅行も一緒に行けるかも知れないね等です。お孫さんの結婚式でおじいちゃん、おばあちゃん宛の手紙を読んでもらうことは、とても強力で前向きなモチベーションになります。
ご家族がやってしまいがちな、補聴器を着けたくなくなる行為もご紹介しておきます。
補聴器を嫌がる高齢者の場合、家族による様々なサポートや親切が無くなってしまうことを強く心配している場合があるのです。
●「今まで距離50cmで会話しなきゃいけなかったけど、補聴器を着ければ、少し離れても聞こえるじゃん」という発言、もしくは補聴器を試聴中に聞こえ方を試す行為。
ご本人にとっては、補聴器よりも家族のサポートの方が、ありがたいのは当然のことなのです。実際に補聴器を使いこなすようになったあとに、距離50cmでの会話をやめるのは当たり前なのですが、補聴器を使いこなす前に不安を増幅させてしまうと、補聴器を嫌いになってしまいます。
補聴器を“買うタイミング”は、メリットがデメリットを超える時
最初に「何かしらの不自由や不都合を感じることがあって、それを解決したいと思うなら、まずは補聴器を体験して、試してみるべき」と書きました。それでは実際に補聴器を買うタイミングは、いつでしょう。
最も確実なタイミングは、補聴器のメリットとデメリットを自分で比べてみて、メリットの方が大きかった時です。
補聴器を買うべきタイミングは、補聴器のメリットとデメリットを自分で比べてメリットの方が大きかった時
補聴器のデメリット
補聴器を買うには、いくつかの分かりやすいデメリットがあります。
・補聴器を購入するには、お金がかかります。最安値でも片耳50,000円程度です。
・もしご自宅の近くに補聴器店がなければ、遠方まで通う必要があります。
・高齢で手先が不自由なら、取り扱いを覚えるのに苦労があるかも知れません。
・外から見えるタイプの補聴器は、人に何か言われることが心配になるかも知れません。(実際には最近の補聴器は小さくなっており、誰からも気づかれないものが選べます)
・自分の難聴を否定している方の場合、難聴を受け入れるのに大きな勇気が必要かも知れません。
いくつか補聴器のデメリットをご紹介しました。難聴と実際の困りごと、両方を自覚していても、補聴器を始めない方の多くは、おそらくここで書いたデメリットの部分を心配されている方だと思います。
補聴器を買うタイミングとは、これらのデメリットを超えるメリットが得られる場合です。
補聴器のメリット
補聴器のメリットをいくつか上げてみます。
・人前で聞き返す事が無くなり、難聴による「カッコ悪さ」が無くなる・減らせる。
・仕事の会議中の言葉がハッキリして、仕事がスムーズになり、自信が取り戻せた。
・家庭内の会話、友人との会話がスムーズになり、人間関係が良くなった。
・家庭内で「テレビの音量が大きい!」などの小言を言われなくて済む。
・「私、また聞き間違えた!?」という不安が解消される。
・音の方向が分かることで、自動車や自転車の衝突などの危険が避けられる。
ここで紹介したメリットが、先に書いたデメリットを上回った時が、補聴器を買うべきタイミングです。
もちろん、この逆にデメリットの方が大きいようなら、補聴器はまだ早いかも知れません。
メリット、デメリットの感じ方は、お一人お一人で変わってきます。あなたにとってのメリットの大きさは、どうしたら分かりやすいでしょうか。
補聴器の試聴体験で、あなたにとってのメリット・デメリットを体感しましょう
私たち、プロショップ大塚では、いつでも「補聴器の3ヶ月無料貸出サービス」を行っています。
これは販売だけが目的ではなく、お客様にご自身にとってのメリット・デメリットをご理解いただくためのサービスです。
そのため聴力検査や補聴器を試聴していただく前には、お客様にとってのメリットとデメリットを明確にするために、色々なお話を聞かせていただいています。
「今回、ご相談のキッカケは何ですか?」
「聴力検査の結果を聞いたことがありますか?」
「あなたが困っていること、解決したいことはどんなことですか?」
「補聴器を体験する上で、心配なこと、不安なことはありますか?」
などです。
また、ご家族に連れてこられた高齢のお客様には
「今すぐ補聴器を使うほど困っていなくても、将来は必要になるかも知れません。5年後は今よりもっと聴力が低下したり、手先が動きにくくなっているかも知れません。今のうちに、補聴器ってどんなものか知っておくだけでもいいのではないですか?」
などのお話しもさせていただいています。
実際、多数のお客様に3か月の試聴レンタルサービスをご利用いただいています。しかし、すべてのお客様が補聴器を買うわけではありません。およそ30%ほどの方は購入しません。購入しなかった方からも「今後のことを考える参考になって良かった」というご感想をいただいています。
・「補聴器の3か月無料貸出サービス」はメリット・デメリットを自分でご理解いただくためのサービス
・試聴されても30%ほどの方は購入しません。もちろん売りつけたりもしません。
・購入しなかった方からも「今後のことを考える参考になって良かった」との声
ぜひ私たちの無料の補聴器レンタルサービスで、現在のご自身の困りごと、補聴器によるメリットとデメリットを確かめていただければと思います。
補聴器を体験する前に、補聴器そのものを知りたいかたは、以下の記事もぜひ御覧ください。
難聴の種類や補聴器について、値段と補助金、補聴器の見た目と効果、補聴器の機能や限界など、一通りのことを書いてあります。
2006年から補聴器の仕事を始めました。もっとも確実に、よく聞こえる方法をご提供することが、私のミッションです。皆様の耳に合った補聴器をお届けするため、毎日毎日、聴覚医学の論文を読み、デンマークやドイツの研究機関と連絡を取り、時には欧州へ勉強に行き、海外から研究者を招き勉強会を開催し、国内の社会人大学院へ通い修士号まで取ってしまいました。本Webページでは、補聴器と難聴について、確かな情報や最新の情報をお届けしていきます。ご相談の方は、お気軽にご連絡ください。
保有資格:認定補聴器技能者、医療機器販売管理者
★ Twitter はじめました。耳の話を真面目に書いてます! : @mimi_otsuka