脳卒中、聴神経腫瘍、生活習慣病も難聴の原因に
生活習慣病や脳梗塞・脳出血など、耳とは直接つながりのなさそうな病気が難聴の原因となってしまうことがあります。
この記事では難聴を引き起こす可能性のある病気と、その予防法をご紹介します。実際の治療に関しては担当医師・専門家にご相談ください。
耳・神経・脳・血管は全部が大切
人が音や言葉を聞き取れるのは、耳だけの働きではありません。
耳から入ってきた音が、神経を通り、脳に届き、脳の中では複雑な処理が行われています。
また、耳・神経・脳のすべてに栄養を運ぶ血管も正常に働いている必要があります。
このため音が聞こえるまでの過程のどこか一か所でもダメージを受けると、人は難聴になってしまう可能性があるのです。
耳の病気だけじゃない!難聴になる病気
ここでは、耳の病気以外で難聴になる可能性のある病気や、難聴になるリスクを高めてしまう病気をご紹介いたします。
脳梗塞・脳出血など、脳卒中の後遺症
脳卒中の後遺症というと、麻痺や失語症を思い浮かべる方も多いと思います。
実は脳卒中によって、脳の中にある聞こえの理解や処理にかかわる部分がダメージを受けると、後遺症として難聴になってしまうことがあります。
脳の障害による難聴は、ダメージを受けた場所によって症状が異なります。
音は聞こえても言われた言葉を理解することが難しくなる、会話の聞き取りはできるが周りの物音が聞き分けられず何の物音なのかわからない、など様々な症状が起こります。
この場合、脳のリハビリを専門としている医師や言語聴覚士のもとでの専門的なリハビリが必要となります。
ある研究によると、難聴の方とそうでない方を比較したとき、難聴の方は過去に脳卒中を発症していた確率が高い1)という結果が出ています。
頭の怪我その1、鼓膜や骨のダメージ
転んだり頭をぶつけたことが原因で、耳がダメージを受けると難聴になることがあります。
頭をぶつけたときに、耳のどこが傷ついたかによって症状は変わります。
鼓膜が傷ついたり、中耳という部分にある音を神経へ伝えるための骨(耳小骨)が外れてしまった場合、難聴になります。この種類の難聴は手術をすることで聞こえが改善する見込みが高いです。
ただし完全に回復するとは限りません。聞こえにくさが残った場合は、補聴器で聞こえを補っていく場合もあります。
頭の怪我その2、内耳へのダメージ
耳の奥には、外から入ってきた振動(音)を電気信号に変換してくれる内耳という場所があります。この電気信号が神経を通って脳に届くと、人は音が聞こえます。
内耳や、内耳と中耳の継ぎ目にダメージを受けた場合、難聴のほかにめまいや耳鳴りが生じることがあります。
頭を怪我した際、耳の奥にある内耳にもダメージを受けてしまうと、比較的高度の難聴が残る場合があります。
頭の怪我による難聴は、ダメージを受けた場所によって、難聴の種類がまったく変わってきます。
聴神経腫瘍
音の刺激を脳に伝える神経(聴神経)にダメージがあると、難聴になることがあります。
聴神経腫瘍では音を伝える神経に腫瘍ができ、徐々に難聴や耳鳴り・めまいが進行します。
片耳だけの難聴であることが多いですが、両耳に難聴が生じることもあります。
聴神経腫瘍の場合、手術で腫瘍を摘出するケースが多いようです。
補聴器店で補聴器をお試しになるより、最寄りの医療機関でしっかり治療を受けましょう。
生活習慣病
一見関係ないように思えますが、動脈硬化、糖尿病、虚血性心疾患、腎疾患も難聴のリスクを高めます。2)
これらの疾患は、加齢性難聴のリスクを高める要因になります。
加齢性難聴の場合、現時点では効果的な治療法が見つかっていないため、補聴器で聞こえを補うことになります。
難聴の予防には毎日の健康習慣が大事
難聴を予防するために、まずは生活習慣を見直しましょう。
日々の生活を見直すことで、生活習慣病による難聴と脳卒中による難聴の予防に繋がります。
バランスの取れた食生活
過剰なコレステロールや中性脂肪は血流障害の原因となります。
お耳の中の血管はとても細くなっています。血流障害になるとその血管に血が巡らなくなり、音を感じ取る細胞がダメージを受けてしまうことで、難聴になってしまう可能性があります。
また脳卒中のリスクを高めてしまうことで、後遺症としての難聴にもなりやすくなってしまいます。
野菜をたくさんとり、お肉だけではなく青魚も食べましょう。
- 筆者の経験ですが、上記の説明をしたところ「言われたとおりにしてるのにLDLコレステロールが全然減らない!」と嘆かれた方がいらっしゃいました。
- お話を伺うと、青魚が良いと聞いたため、サバ缶を食べていたそうです。しかし、普段の食事はそのままで、さらにサバ缶を追加していたというのです。青魚がいくら体に良いと言われても、お薬ではありません。
- 大事なのは、バランスです!普段の食生活で、たまにお肉を青魚に置き換えるなど、食事の量はそのままで適量を心がけましょう。
今よりほんのすこし運動を
過食や運動不足によって肥満になると、高血圧や脂質異常症や糖尿病になる可能性が高まります。これらも耳の血流を悪くさせ、難聴になるリスクを高めます。また、脳卒中などの危険因子にもなります。
厚生労働省のスマート・ライフ・プロジェクトでは『+10運動』という、今よりもう10分体を動かそうという考えを推進しています。
思い切ってランニングを始めるのも良い考えですが、まずは無理なく+10から始めるのはいかがでしょうか。
禁煙
タバコは様々な病気の危険性を高めると知られていますが、実は難聴の原因にもなります。
煙草に含まれるニコチンは耳の中の血流を悪くさせ、難聴になる可能性を高めてしまいます。また、脳卒中のリスクも高まります。
おひとりでは禁煙できない場合は、禁煙外来の受診を考えても良いかもしれません。禁煙のための飲み薬や貼り薬などを処方してくれる場合があります。
引用文献
1)Gopinath B他, 「Association between age-related hearing loss and stroke in an older population」,『 Stroke』, 2009 Apr;40(4):1496-8.
2)内田育恵他,「加齢および全身性基礎疾患の聴力障害に及ぼす影響」,『Otology Japan』,2004,14(5), 708-713
参考文献
藤田育代(監),『標準言語聴覚障害学 聴覚障害学 第3版』, 医学書院, 2021
岩田誠(編),『言語聴覚士のための基礎知識 臨床神経学・高次機能障害学』,医学書院,2006
紺野加奈江,『失語症言語治療の基礎 診断法から治療理論まで』,診断と治療社,2001
スマート・ライフ・プロジェクト,生活習慣病を知ろう! | 健康イベント&コンテンツ | スマート・ライフ・プロジェクト,https://www.smartlife.mhlw.go.jp/event/disease/(最終アクセス日2021.07.19)
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士
【監修】
補聴器専門店プロショップ大塚を運営する株式会社大塚の代表取締役。認定補聴器技能者、医療機器販売管理者。
たくさんの難聴の方々に、もっとも確実によく聞こえる方法をご提供することが私たちのミッションです。
監修においては、学術論文もしくは補聴器メーカーのホワイトペーパーなどを元にしたエビデンスのある情報発信を心がけています。
なお古いページについては執筆当時の聴覚医学や補聴工学を参考に記載しております。科学の進歩によって、現在は当てはまらない情報になっている可能性があります。
※耳の病気・ケガ・治療、言語獲得期の小児難聴や人工内耳については、まず医療機関へご相談下さい。