感音性難聴の原因と今日からできる予防習慣
感音性難聴の原因は、耳の奥にある蝸牛やそこにつながる神経のダメージです。
このダメージを予防するためには、大きな音を聞かないように気を付けることが大切です。近年の研究では、電車通勤程度の音量でも長年継続すると難聴になる可能性があることが分かってきました。難聴が始まった場合、大きな音量でテレビを見たりすると悪循環につながり、さらに進行する可能性があります。
耳の仕組みと、耳へのダメージ
耳は大きく分けて3つの部位(外耳・中耳・内耳)に分けられます。さらに、その奥にある蝸牛神経が、脳へ音を届けています。
耳の仕組み
人間が音を聞く構造は複雑で、さまざまな器官の組み合わせで音を聞いています。
①「耳介」が音(空気の振動)を集め、効率よく耳のあなに音を届けます。
②「鼓膜」が空気の振動を受けて震えます。
③「耳小骨」が鼓膜の振動を蝸牛へ伝えます。
④「蝸牛」は、振動(音)を電気信号へ変換し、神経を通して脳に伝えます。
- 蝸牛の内側には有毛細胞という毛の生えた細胞が、ずらりと並んでいます。外から蝸牛に振動(音)が届くと、有毛細胞に生えている毛を揺らし、電気信号が生まれます。この信号が内耳神経を通して脳に届くことで、人は音を聞き取ることができます。
感音性難聴の症状
難聴にはいくつか種類がありますが、ここでは感音性難聴でよくみられる症状をご説明します。
小さな音が聞こえにくくなる、音に気付きにくくなる
会話などの声は普通に聞こえるような方でも、体温計の音や時計のアラームなどが聞こえず、仕事や生活でお困りになる方がいます。
会話は一部聞こえない部分があっても他の音や文脈から推測できる場合がありますが、電子音はそうではないため、難聴を自覚しやすいポイントです。
感音性難聴は、軽度でも言葉が聞き取りづらくなる
「音は聞こえるんだけど、聞き間違えてしまう」というのは感音性難聴の方に多く見られる症状です。
感音性難聴ではない難聴(伝音性難聴といいます)の場合、音が小さくなるだけで「聞こえれば分かる」という特徴があります。これに対して感音性難聴では、音がぼやけてしまう、あるいは言葉のツブが聞こえにくくなってしまう事が特徴です。
感音性難聴の最初期は「にぎやかな環境だと聞き取りづらい」
軽い感音性難聴が始まっている場合、普段は自覚しなくても、にぎやかな環境でだけ極端に聞き取りづらく感じる場合があります。
健聴の方は周りの音と聞きたい言葉を分けて聞き取る力があります。しかし、この力は感音性難聴が始まると、少しずつ低下していきます。そのため普段は聞き取りづらさを自覚しない方でも、にぎやかな環境では聞きたい音と環境音が一緒に聞こえてしまい、聞き取りづらくなります。
中等度まで進行すると、大きい音に強い不快さを感じる場合も
感音性難聴は聞こえにくいことだけでなく、大きな音に不快さを感じてつらいという現象が起こる場合があります。
この現象はおよそ解明されているのですが、複数の原因があります。
・有毛細胞の損傷による雑音を抑える機能の低下(聴覚補充現象といいます)。
・耳小骨にある自動で大きな音を抑える機能(鐙骨筋反射)が、加齢によって低下。
・聞こえない状態で年数が経過することで、稀に大きな音を聞いたときに強い不快感を感じる(難聴をともなう聴覚過敏または音過敏ともいう)。
なお、この大きな音に対する不快さは難聴が軽いうちから補聴器を使うと予防できる可能性があります。
音が蝸牛に与えるダメージと感音性難聴の予防
音は普段から身の回りにあふれていますが、音を長時間聞きすぎると蝸牛にダメージを与え、感音性難聴になる可能性が高まります。
人間の聴覚は一時的に音を聞き過ぎても回復します。しかし近年の研究によって回復が追いつかなくなる一日当たりの音を聞く限界、一週間あたりの音を聞く限界がそれぞれ分かってきました。
これらの表はWHOや日本耳鼻咽喉科学会が示した「音を安心して聞いていられる」基準です。逆に言えば、日常的に聞いている音でも、上記の表に示されている時間を超えて聞いてしまうと、難聴になる可能性が高まると考えられています。実際の生活のことを考えると、とても厳しい基準となっており、これを厳守した生活を送るのは難しそうです。
ここからは自分の耳を守るために役立つ、生活の場面ごとの対策をご紹介します。
「音を聞く合計時間が大事」
通勤で週5日、電車に片道1時間乗ってしまうと、それだけで週10時間になり、週末に音楽を楽しむ余裕がなくなってしまいます。オートバイに一日45分乗るような方の場合、追加してドライヤーを15分使ってしまうと一日の許容範囲を超えてしまいます。
日常的な騒音
電車内の騒音・車やオートバイの排気音など、普段聞いているような音も毎日継続して聞いていると耳を傷める可能性があります。またイヤホンやスピーカーに限らず、大きな音でテレビや音楽を聞くことも耳を傷める原因になります。
<予防方法>
1.日常的な騒音は耳栓を使用し、音を和らげ耳を守りましょう。
2.駅のホームなどのうるさい場所で、電話したり音楽を聞こうとすると、過度に音量を上げることになります。うるさい場所での電話は控えるか、ノイズキャンセル機能付きのイヤホンを使いましょう。
3.大音量でテレビを見ないようにしましょう。テレビの音が聞こえない時は換気扇など他の環境音を小さくして、テレビを聞きやすい環境を作りましょう。
一時的な大騒音
大きな音を聞くことで一時的に音が聞こえにくい状態になることがあります。これは概ね数分から長い方で3週間程度で改善するとされています1)。
しかし完全に戻る前に大きな音を繰り返し聞いていると、一時的な聞こえにくさが永続的な難聴に変わってしまう可能性があります2)。
<予防方法>
1.ライブへ行った後は、聞こえを回復させるため、3週間は大きな音や騒音のする環境を避けて耳を休ませましょう。
2.大音量のライブでは耳栓を使用しましょう。
3.飛行機に乗る機会が多い方は、オーダーメイドの高性能耳栓や航空自衛隊などで使われる高性能耳栓を使っていただくのが有効です。
音曝露以外が原因の蝸牛ダメージと予防方法
60歳まで良い聞こえを維持されている方であっても、10年後にはそのうちの3人に1人が難聴を発症してしまいます3)。逆に言えば年を重ねても難聴にならない方もいます。
加齢性難聴の発症には遺伝的な要素と若い時からの生活習慣4)5)また生活習慣による血管へのダメージが関わっています。
血管へのダメージの原因になるものは喫煙や高コレステロール血症などがあります。
<予防方法>
1.禁煙しましょう。タバコは体の酸化ストレスを高め、また血管を収縮させたり傷つける作用があります。音を感じる蝸牛は非常に小さく、血管も細いため影響を受けやすく難聴のリスクが高まります。
2.適度な運動(有酸素運動)で血管の流れを良くしましょう。コレステロール値の上昇は難聴のリスクを高めます。有酸素運動によりコレステロール値の上昇を抑え、血行を良くすることで難聴を予防しましょう。
3.生活リズムを保ちましょう。不規則な睡眠は自律神経の不調や酸化ストレスの増大を招き、突発的な難聴のリスクを高める可能性があります。普段からしっかりと休息を取るようにしましょう。
病気による感音性難聴
音曝露や生活習慣、加齢の他にも病気によって感音性難聴になる場合があります。
感音性難聴になる病気は突発性難聴をはじめとして様々なものがあります。音曝露や加齢、血管のダメージによる感音性難聴の多くは治りませんが、原因が病気であれば治るケースがあります。聞こえにくさを感じた際は、耳鼻科の病院を受診しましょう。
こちらの記事もご覧ください。
突発性難聴の症状、ストレスが原因?治る可能性は?
メニエール病が原因の難聴。基礎知識と対応した補聴器について
おわりに
この記事で紹介した感音性難聴の発生を予防する生活習慣は、すでに感音性難聴になった方の難聴をそれ以上進行させないための進行予防にもなります。
聞こえを維持する・難聴の進行を防ぐために、大きな音を長時間聞かないこと、禁煙、適度な運動、生活リズムを保つこと、これらの生活上の注意点を守っていただくことをお勧めいたします。
引用・参考文献一覧
1)Allen F. Ryan他,「Temporary and Permanent Noise-Induced Threshold Shifts: A Review of Basic and Clinical Observations」,『Otology & neurotology』,2016 Sep; 37(8),2016,e271–e275
2)B.L.Lonsbury‐Martin,G.K.Martin,「Repeated TTS exposures in monkeys: Alterations in hearing,cochlear structure,and single‐unit thresholds」,『The Journal of the Acoustical Society of America』,81(1507),1987
3)内田 育恵他,「全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率―老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」,『日本老年医学会雑誌』,49 巻 2 号,2012,p. 222-227
4)Tatsuya Yamasoba他,「Current concepts in age-related hearing loss: epidemiology and mechanistic pathways」,『Hearing Research』,2013 Sep 303:,2013,30-8
5)Jan Jaap Hendrickx他,「Familial aggregation of pure tone hearing thresholds in an aging European population」,『Otology and Neurotology』,Volume34-5,2013,p.838-844
コミュニケーションにお困りの方に寄り添える仕事を目指し、2012年に言語聴覚士免許取得。8年間の病院勤務にて聴覚障害の領域などを担当。難聴の方の聞こえを改善するため、補聴器を専門にして働きたいと考え、2020年プロショップ大塚に入社。耳鼻咽喉科での勤務経験を活かし、さまざまな情報や知識を分かりやすくお届けすることを心がけています。
保有資格:言語聴覚士