“実耳測定”最も効果的な補聴器の調整・適合判定を実現する、世界標準の測定ツール

実耳測定(Real Ear Measurement,REM)は、プローブチューブを鼓膜付近まで挿入し、実際の鼓膜面上の音を測定します。

補聴器から出た音は耳せんや共鳴、頭部陰影効果など、様々な影響を受けて、鼓膜に届くまでに変化します。そのためカプラを使って補聴器の音質を理想的に調整しても、意図しない音質で鼓膜に音が届いてしまう可能性があるのです。

実耳測定で鼓膜面の音を測定することで、耳せんや外耳道内の共鳴などを反映した、最終的に補聴器ユーザーが聞く音を確認できます。

実際の手順では、まずプローブチューブを鼓膜面近くに配置し、その状態で補聴器を装着します。
プローブチューブは補聴器が出力した、鼓膜面で鳴っている音を拾います。

プローブチューブが拾った音は、耳の下にある測定マイクで測定されます。

鼓膜面の音響特性を測定すると、カプラでシミュレートした音ではなく、実際にユーザーが聞く音を確認できます。
そこからメーカーのフィッティングソフトを使用し、ユーザーの聴力に対して望ましい鼓膜面特性(処方式といいます)に調整することで、はじめて補聴器の理想的な調整が完成するのです。

これが、現代の補聴器調整に実耳測定が不可欠な理由です。

実耳測定がユーザー・補聴器店・耳鼻科クリニックにもたらすメリット 

実耳測定をつかった補聴器フィッティングには、補聴器ユーザー、補聴器店・耳鼻咽喉科クリニックのどちら様にも、大きなメリットがあります。下記の多くは検証済みの研究のごく一部です。

補聴器ユーザーの満足度への貢献(特に雑音下での言葉の聞こえ)

米国で行われた研究*1では、同じ補聴器で実耳測定を行って調整をした場合と、メーカーソフトのみの調整(ファーストフィット)を比較しました。

研究では、補聴器調整の際に実耳測定を行った人、行わなかった人に分け、それぞれのグループに補聴器の聞こえ具合について質問※をし、評価してもらいました。その結果、①普段の会話②雑音が大きい場所③反響する場所のそれぞれで、実耳測定を使って調整した補聴器のほうが、評価が高かったのです。

特に雑音が大きい場所において、実耳測定を行った調整のほうが満足度が高い結果となりました。

※質問内容は欧米で著名な質問紙「APHAB(Abbreviated Profile of Hearing Aid Benefit)」を使用

1:Michael Valente, Kristi Oeding, Alison Brockmeyer, Steven Smith, Dorina Kallogjeri:Differences in Word and Phoneme Recognition in Quiet, Sentence Recognition in Noise, and Subjective Outcomes between Manufacturer First-Fit and Hearing Aids Programmed to NAL-NL2 Using Real-Ear Measures:J Am Acad Audiol 2018; 29(08): 706-721

客観的な明瞭度の改善(特に距離2メートル程度の小さな声の改善)

また別の調査では、補聴器を装用した際の言葉の明瞭度についても調査されました。単語のセットを呈示し、その単語を回答してもらう検査を実施し、実耳測定実施群と未実施群でその正答率を比較しました。

結果調査の結果、50dB(2メートル程度離れた場所の声に相当)で呈示された際、実耳測定実施群のほうが20%近くも明瞭度で上回りました。これらの結果から、実耳測定を用いて調整された補聴器は、客観的な検査結果においても良いパフォーマンスを持っていることが明らかになりました。

補聴器を購入する可能性の向上

別の研究*2では、補聴器販売店にとってのメリットも確認されています。被検者は実耳測定による調整を受けた人と受けなかった人に分かれ、補聴器調整をしたクリニシャンを評価しました。

その結果、実耳測定による調整を受けた人のほうが「この人から購入したい」というようなポジティブな印象を持つことが明らかになりました。

2:Amyn M. Amlani, PhD, John Pumford, AuD, and Erich Gessling:Real-Ear Measurement and Its Impact on Aided Audibility and Patient Loyalty:October 2017 Hearing review

実耳測定の歴史

実耳測定には、実は40数年もの歴史があります。はじめは欧米の一部研究機関にて、補聴器による音の増幅を直接評価する方法として、研究開発が進められました。1990年代に入ると、海外の補聴器店やオーディオロジークリニックへの導入が始まり、現在では多くのオーディオロジストが実耳測定を使用して補聴器を調整しています。

日本においては、補聴器適合検査の指針(2010)において

「実耳挿入利得の測定(鼓膜面音圧の測定)」

「挿入型イヤホンを用いた音圧レベル(SPL)での聴覚閾値・不快レベルの測定」

という表現で実耳測定が紹介されています。

「補聴器適合検査の指針(2010)」の発表から10年以上の時間が流れ、現在では大学病院や総合病院の補聴器外来、リハビリテーション病院、聴覚に力を入れている耳鼻科クリニック、認定補聴器専門店において実耳測定が導入されつつあります。